進化の意外な順序 ——感情、意識、創造性と文化の起源

書籍情報

【単行本】
No image
著 者:
アントニオ・ダマシオ
訳 者:
高橋洋
出版社:
白揚社
出版年:
2019年2月
定 価:
本体3,000円+税

「身体がなければ、心は決して始まらない」

「心は脳だけではなく、脳と身体の相互作用から生じる」。これが著者ダマシオの重要な主張だ。「脳だけを心の源泉と見なす従来の見方とは袂を分かつ」

本書では、生命の誕生から始めて、私たちの心や感情や意識がいかにして進化してきたのかを論じている。この論考をとおして、心や感情や意識が身体なしでは生じないことを読者に説く。

生命の誕生以来、ホメオスタシスが作用してきた

およそ38億年前に、生命、少なくとも私たちの祖先になる生命が誕生したという。最初の生命は、細菌のような単純な生命だった。そして生命の誕生以来、ホメオスタシスが作用してきた。

原初の生命に、心はなかった。「最初は、身体全体を使った何らかの動作を実行できる単細胞生物が、感知や反応を行なっていたにすぎない」。だが、心の誕生に向けた歩みは、この初歩的な感知や反応とともに始まったという。

著者は、細菌を「非常に知的な生物」と見なしている。この「脳や心のない知性」について解説する。

「ホメオスタシスは自然選択の背後にある価値基準」

著者ダマシオは、ホメオスタシスの概念を従来の定義から拡張している。本書では、「従来のホメオスタシスの概念」やその起源の説明を交えながら、ホメオスタシスに関する著者の見解を詳細に述べている。その中から、つぎの3つの記述を紹介したい。

「ホメオスタシスは、生命の根幹に関わる一連の基本的な作用を指し、初期の生化学によって生命が誕生した、生命の消失点をなす原初の時代から今日に至るまで続いてきた。それは思考も言葉も関与しない強力な規則であり、大小あらゆる生物が、その力に依存して他ならぬ生命の維持と繁栄を成就してきた」

「生命を律する魔法のようなホメオスタシスの規則には、とぐろを巻くように、その瞬間の生存を確保するための指示が詰め込まれていた。代謝の調節、細胞構成要素の修理、集団における行動規範、バランスのとれたホメオスタシスの状態からの正もしくは負の逸脱を、適切な処置を講じるべく測定するための基準などである」

「ホメオスタシスは自然選択の背後にある価値基準であり、自然選択はもっとも革新的で効率的なホメオスタシスをコードする遺伝子と、それを持つ生物を選考する。生命活動の最適な調節を可能にし、その能力が子孫に受け渡されるよう導いてくれる遺伝的な装置の発達は、ホメオスタシスなくしては考えられない」

神経系は、「身体のアシスタント」として誕生した

本書には、神経系が登場するまでの大まかな流れをまとめたところがある。そこには、つぎのように記されている。

地球の誕生 約45億年前
化学作用と原細胞 40~38億年前
最初の細胞 38~37億年前
真核細胞 20億年前
多細胞生物 7~6億年前
神経系 約5億年前

進化と成長の長いプロセスは、競争的な側面が強調されがちだが、協業の例に満ちているという。「有核細胞は、互いに協力し合いながら組織を形成し、組織はのちに器官やシステムを構成していく」

著者はつぎのように述べている。

「ホメオスタシスの規則は、協力のプロセスの背後に存在し、「総合的なシステム」の出現にも大きな役割を果たすなど、多細胞生物の進化の歴史を通じて至るところで作用していた。そのような「全身体システム」なくしては、多細胞生物の複雑な構造や機能は出現し得なかっただろう。その種の発達の代表例として、循環系、内分泌系(ホルモンを組織や器官に分配する役割を担う)、免疫系、神経系をあげることができる」

神経系は、「身体のアシスタント」として誕生した。神経系の始原は、簡素なものだった。簡素な神経系にはマッピング能力が欠如しており、それはイメージ形成能力の欠如をも意味する。イメージは、心の構成要素になるもの。

その後、神経系は複雑化を遂げて、物体やできごと(事象)をマップする能力が出現する。事象に対応する神経細胞の活動によって、神経マップが構築される。視覚、聴覚、触覚、嗅覚、味覚に由来するマップ、内臓やその作用をもとに構築されるマップがある。

著者は、こう記す。「こうした複雑に絡み合った神経活動の記述、すなわちマップは、私たちが心のなかでイメージとして経験するものに他ならない。各感覚モードのマップは、イメージ形成の基盤であり、時間の経過に沿って流れるそれらのイメージが、心の構成要素をなしている」

マッピング能力、イメージ形成能力によって、「生物は、神経系を取り巻く世界の独自の内的な表象を形成することができるようになった」。神経系を取り巻く世界には、その生物の「外部の世界」と、その生物の「内部の世界」とがある。

神経系は、それ以外の身体と連携しながら「生体内部のイメージと並んで、周囲の世界の内的イメージを形成するようになる」。著者は、こう続ける。「ついに私たちは、静かに、そしてつつましやかに心の時代を迎えたのである」と。

感情とは「ホメオスタシスの心的表現」

「イメージ形成のもとになるシグナルは三つの源泉から発せられる」。この三つの源泉とは、「外界」「古い内界」「新しい内界」。それぞれ詳細に説明されているのだが、ここでは「古い内界」の説明を紹介してみたい。つぎのように記している。

「古い内界は最初で最古の内界で、基本的なホメオスタシスに関係する。多細胞生物では、この世界は、代謝とそれに関連する化学作用、それに加え心臓、肺、腸、皮膚などの諸器官、さらには血管の壁面や諸器官の皮膜をなす部位の至るところに見られる平滑筋から構成される。…略…」

古い内界のイメージが、「感情」の中核をなす。「感情とは第一に、身体内部の古い内界における生命活動の状態の質に関するものなのである」。感情とは「ホメオスタシスの心的表現」と述べている。

「感情」は、著者ダマシオの最重要ワード。詳細に説明している。

感情について述べたあと、意識について論じて、第2部までが終了。第3部では、「感情」や「ホメオスタシス」の観点から、文化について、現代社会とその未来について、人間の本性について論じている。

ひとこと

著者ダマシオは、これまでの著書においても、〝「脳」と「身体」は強く相互作用している分離不可能なもの〟であることを述べているのだが、この脳と身体の結びつきを進化に照らして詳細に説明しているところが、おもしろかった。

初投稿日:2019年04月07日

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