進化の意外な順序
著 者:
アントニオ・ダマシオ
出版社:
白揚社
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盲目の時計職人
著 者:
リチャード・ドーキンス
出版社:
早川書房
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ミラーニューロンの発見
著 者:
マルコ・イアコボーニ
出版社:
早川書房
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芸術と科学のあいだ
著 者:
福岡伸一
出版社:
木楽舎
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単純な脳、複雑な「私」
著 者:
池谷裕二
出版社:
講談社
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これが物理学だ!
著 者:
ウォルター・ルーウィン
出版社:
文藝春秋
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櫻井武の本、どれを読む?

「櫻井武の本、どれを読む?」メイン画像

「睡眠・覚醒」および「食欲」の脳内メカニズムに興味を持った一般読者を深く満足させ、さらなる興味を喚起する絶妙な解説。生命維持において重要な脳部位のことを教えてくれる

櫻井武は、筑波大学医学医療系および国際統合睡眠医科学研究機構教授(2017年12月16日現在)。覚醒を安定化させている神経ペプチド「オレキシン」の発見者として知られている。

オレキシンを発見し、その機能を解明していくうちに、必然的に睡眠の研究を行うようになったという。

睡眠と覚醒を切り替える脳内メカニズムとはどのようなものか。この解説が、櫻井武の本の中核をなす。

大別すると睡眠には、「ノンレム睡眠」と「レム睡眠」という、まったく異なる状態がある。「つまり脳の機能的状態、あるいは作動モードには大きく分けて覚醒・ノンレム睡眠・レム睡眠の3つがある」(『睡眠の科学』)。この3つの状態を、櫻井武はつぎのように喩える。

「それはちょうど、コンピューターがオンでインターネットにもつながれている状態(覚醒)、スリープモードの状態(ノンレム睡眠)、そしてオフラインで使っている状態(レム睡眠)の3つにあたると考えてよい」(『睡眠の科学』)

睡眠・覚醒をつくりだすうえで重要な役割を果たしているのは「視床下部」と「脳幹」なので、櫻井武の本を読むと、これらの脳部位にまつわる知見を得ることができる。睡眠に興味のある方はもちろん、脳科学に興味のある方にとって必読の著者だと私は思っている。

「オレキシンは、視床下部外側野という部分に存在するニューロンによって産生されている」(『睡眠の科学』)

この視床下部外側野は、「摂食中枢」として知られているところ。櫻井武は、食欲の制御に大きな影響を与える「QRFP」という神経ペプチドも研究している。(『食欲の科学』参照)

睡眠と食欲。これが櫻井武の本のメインテーマだ。(このレビュー執筆時点では、睡眠をテーマにした本がほとんど)

(以下、2025年追記)
2020年に櫻井武らの研究チームは、「マウスの視床下部の一部の小領域(前腹側脳室周囲核)に存在する、あるニューロン群を特異的に興奮させると、長期にわたり、持続的かつ安定な低体温・低代謝を惹起することを明らかにした」(『SF脳とリアル脳』)。これらのニューロン群を、「Qニューロン」(Quiescence-inducing neurons:休眠誘導神経)と名づけた。

この研究以降の著書には、「冬眠」や「人工冬眠」の話題も登場している。

櫻井武の書籍

2025年3月現在、櫻井武の著書は以下のとおり。(ポピュラーサイエンスの本のみ。著者多数、監修など、著書と言えない本は除く)

睡眠科学の教養を得ることができる『睡眠と覚醒をあやつる脳のメカニズム』

4章までは、つぎのような構成。まず、快眠のためのヒントを「Tips」として簡潔に伝える。つぎに「理解編」としてそのメカニズムを解説。最後に睡眠に関するやや専門的な内容(一般レベル)を「コラム」として取り上げる。最終章(第5章)は、Tipsや理解編という形式ではなく、「睡眠の役割」と題して、睡眠と脳に関する多彩なトピックを見ていく。「快眠のためのヒント」もあるが、睡眠科学の知識を伝えるほうにフォーカスしている。

【扶桑社新書】
睡眠と覚醒をあやつる脳のメカニズム
著 者:
櫻井武
出版社:
扶桑社
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脳を題材にしたSF作品の実現可能性を考察するという切り口で、脳の特性を浮かび上がらせる『SF脳とリアル脳』

SF作品に登場するテーマとして、サイボーグ、電脳化、意識のコピー、人工冬眠やコールドスリープ(冷凍睡眠)、記憶の書き換え、時間旅行、脳の潜在能力、眠らないヒト、心をもつAI、を取り上げている。これらのテーマを切り口として、運動のメカニズム、視覚、冬眠、記憶、睡眠など脳にまつわる多彩な知見を伝え、また、意識、心、時間についての考察を行っている。SF作品の紹介もある。

【ブルーバックス】
SF脳とリアル脳
著 者:
櫻井武
出版社:
講談社
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睡眠の科学をやさしく紹介し、睡眠の本質を伝える『すぐに実践したくなるすごく使える睡眠学テクニック』

全部(7つの章)で73項目を立て、1項目は2〜3ページ(4ページもある)で解説している。睡眠に関するいくつものエッセイを気軽に読むという雰囲気だが、脳の部位やホルモンの名称などもたびたび登場する。こうした用語も交えて説明することにより、睡眠の正しい知識、睡眠の本質を伝えている。

【単行本】
すぐに実践したくなるすごく使える睡眠学テクニック
著 者:
櫻井武
出版社:
日本実業出版社
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こころ、情動、感情、こうしたことについて考えるための、さまざまな脳科学の知見を得ることができる『「こころ」はいかにして生まれるのか』

脳科学の本をまったく読んでいない人も読めるように、脳の基本的なことから丁寧に解説している。とくに、情動と大脳辺縁系を(一般レベルで)詳述する。そして終章で、「こころ」とは何かについての著者の考えを述べている。

【ブルーバックス】
「こころ」はいかにして生まれるのか
著 者:
櫻井武
出版社:
講談社
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睡眠と覚醒の脳内メカニズムなど、睡眠の多彩な話題を交えながら、眠るための「秘訣」を伝える『最新の睡眠科学が証明する必ず眠れるとっておきの秘訣!』

この本は、眠るための「秘訣」に光を当てている。その秘訣を、さまざまな睡眠にまつわる知識とともに知ることができる一冊。書名および表紙のデザインからは、気軽に手にとれる睡眠のハウツー本、という印象を受けるかもしれないが、じつのところ、睡眠の多彩な話題に触れることができる読み応えのある本だ。

【単行本】
最新の睡眠科学が証明する必ず眠れるとっておきの秘訣!
著 者:
櫻井武
出版社:
山と溪谷社
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「睡眠のしくみ」や「覚醒のしくみ」を司る脳の説明を少し交えながら、不眠症などの睡眠障害を解説する『睡眠障害のなぞを解く』

本書では、「睡眠のしくみ」や「覚醒のしくみ」を司る脳の説明を少し交えながら、不眠症などの睡眠障害がなぜ起こるのか、また、その診断や治療はどのようになされるのかを解説している。睡眠導入薬にまつわる説明、また、「眠るスキル」を向上させるためのアドバイスもある。

【健康ライブラリー】
睡眠障害のなぞを解く
著 者:
櫻井武
出版社:
講談社
No image

「食欲」を制御する脳のしくみを、一般読者に向けて詳しく解説する『食欲の科学』

食欲とは、「長期的には脂肪の、短期的には血糖値の変動に伴って亢進あるいは抑制されるもの」だという。これがどういうものなのか、その脳内メカニズムを解説しているのが本書だ。とくに、脂肪の変動に伴う食欲の制御システムが解説の中心となっている。本書の〝主役〟は、レプチン。

【ブルーバックス】
食欲の科学
著 者:
櫻井武
出版社:
講談社
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驚くべき睡眠病や創作に見られる睡眠をとりあげながら、脳科学の知見に基づいて睡眠を解説する『<眠り>をめぐるミステリー』

驚くべき睡眠病の事例を紹介し、睡眠とはいったい何なのか、なぜそのようなことが起こりえるのか、脳科学の知見に基づいて解き明かしていく。

【NHK出版新書】
<眠り>をめぐるミステリー
著 者:
櫻井武
出版社:
NHK出版
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脳科学の基礎知識をもたない読者のためのコラムを用意し、睡眠と覚醒の脳内メカニズムを解説する『睡眠の科学』

睡眠は進化の過程で失われることがなかった。このことからも睡眠が重要な機能であることがわかる。本書はそんな指摘からはじまり、読み終えた頃には、脳科学に基づいた睡眠知識を得ることができる。また、覚醒の制御にかかわる神経ペプチド「オレキシン」を詳述している。

【改訂新版】
睡眠の科学
著 者:
櫻井武
出版社:
講談社
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櫻井武の本、どれを読む?

櫻井武の本で睡眠科学の教養を得るなら、2025年6月時点では、『睡眠と覚醒をあやつる脳のメカニズム』が最適。上述したように、「快眠のためのヒント」もあるが、睡眠科学の知識を伝えるほうにフォーカスしている。

ただし、『睡眠の科学』(ブルーバックス)と『すぐに実践したくなるすごく使える睡眠学テクニック』を両方読んでいる人にとっては、既知の内容がほとんどになる。

【扶桑社新書】
睡眠と覚醒をあやつる脳のメカニズム
著 者:
櫻井武
出版社:
扶桑社
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上述の『睡眠と覚醒をあやつる脳のメカニズム』には、快眠のための「Tips」も記されているので、睡眠に関する科学的知見のみに興味がある方にとっては、『睡眠の科学』のほうが好みかもしれない。睡眠と覚醒の脳内メカニズムの解説も、『睡眠の科学』のほうが詳細だ。『睡眠の科学 改訂新版』が私の一推しだが、これは2017年出版の本なので、最新情報は含まれていない。

2025年6月時点では、『睡眠の科学 改訂新版』で睡眠科学の知識を得て、『すぐに実践したくなるすごく使える睡眠学テクニック』で最新情報を補完する。このような選び方もできる。同著者の本を2冊読むと重複も出てくるが、この繰り返しは、知識の定着にも役立つ。

【改訂新版】
睡眠の科学
著 者:
櫻井武
出版社:
講談社
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【単行本】
すぐに実践したくなるすごく使える睡眠学テクニック
著 者:
櫻井武
出版社:
日本実業出版社
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櫻井武 profile

『睡眠の科学・改訂新版』より(一部省略して)引用

一九六四年東京生まれ。筑波大学大学院医学研究科修了。医師、医学博士。日本学術振興会特別研究員、筑波大学基礎医学系講師、テキサス大学ハワード・ヒューズ医学研究所研究員、筑波大学大学院准教授、金沢大学医薬保健研究域教授を経て、現在、筑波大学医学医療系および国際統合睡眠医科学研究機構教授。一九九八年、覚醒を制御する神経ペプチド「オレキシン」を発見。平成十二年度つくば奨励賞、第14回安藤百福賞大賞、第65回中日文化賞、平成二十五年度文部科学大臣表彰科学技術賞、第2回塩野賞受賞。

初投稿日:2017年12月18日最終加筆:2025年07月14日

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