大栗博司の本、どれを読む?
「やさしくても本格的」、読み物としてもおもしろい。「ごまかさない」解説と巧みな表現で素粒子世界を案内する
素粒子理論、とくに超弦理論(超ひも理論)の専門家であり、世界的に活躍している大栗博司。物理学者であるが、アメリカ数学会の初代フェローに選ばれるなど、数学においての活躍もよく知られている。
一般向けの講演や書籍の執筆などのアウトリーチ活動にも力を注いでおり、ポピュラーサイエンスの良書を上梓している。
一般向けの書籍であっても「ごまかさない解説」「たとえ話は正確さを犠牲にしない」といったことを大切に執筆しており、その執筆姿勢からは「やさしくても本格的」という矛盾しかねない要素をうまく兼ね備えた書籍が生みだされている。
さらに著書には、登場する科学者や著者自身のエピソードが巧みな表現で織り込まれ、読み物としてのおもしろさもある。このあたりが他の多くの新書とは一線を画する読後感をもたらしている。
また、科学者たちの似顔絵も担当するなど、細部にも気を配りながら書籍づくりを楽しんでいる様子もうかがえる。
大栗博司の書籍
本記事投稿時点(2014年9月21日)で、大栗博司の著書は4冊。
究極の統一理論の最有力候補と目されている超弦理論(超ひも理論)の入門書『大栗先生の超弦理論入門』
『大栗先生の超弦理論入門』は、重力の理論と量子力学を統合できる理論として期待されている「超弦理論(超ひも理論)」を解説している。10次元時空が登場するが、もちろん大真面目な物理学の本。「空間は幻想」という話も登場する。文系向けの超弦理論入門書の決定版といえる。
- 著 者:
- 大栗博司
- 出版社:
- 講談社
素粒子の標準模型が解説され、また「ヒッグス粒子発見の本当の意義」も語られている『強い力と弱い力』
『強い力と弱い力』は、素粒子の標準模型を数式なしで案内する。南部陽一郎の「対称性の自発的破れ」や、ヒッグス場、ヒッグス粒子に興味がある方にとくにおすすめ。標準模型の概要を知りたい文系読者には必読といえるかも。著者が読者を信頼し「やさしくても本格的」の「本格的」が失われないように解説をしているのがよくわかる。
- 著 者:
- 大栗博司
- 出版社:
- 幻冬舎
話題になった本。相対性理論や超弦理論などを解説した『重力とは何か』
『重力とは何か』は「重力の七不思議」から説き起こし、アインシュタインの相対論や超弦理論(超ひも理論)を解説している。「ブラックホールの情報問題」に興味がある方にもおすすめ。空間はある種の「幻想」といった興味深い内容があり、ここが本書のクライマックス。
- 著 者:
- 大栗博司
- 出版社:
- 幻冬舎
さまざまな媒体で執筆した科学解説記事をまとめた『素粒子論のランドスケープ』。文系読者なら他書を先に読むことをおすすめ
『素粒子論のランドスケープ』は、著者がさまざまな媒体で執筆した科学解説記事をまとめたもの。専門の雑誌に書いたものばかりなので、新書のようなやさしい解説とは異なる。記事によっては難解な数式も登場。本書を最初に読んでしまって、大栗博司の本は難しいというイメージを持たないようにしたい。
- 著 者:
- 大栗博司
- 出版社:
- 数学書房
大栗博司の本、どれを読む?
タイトルがその内容を明らかにしているので、書籍選びがしやすい。もし読書テーマを決めていないのであれば、はじめの一冊として『重力とは何か』をおすすめ。話題になった本であり、4冊のなかで一番読みやすい本でもある。この本を読み終えて超弦理論に興味を持ったのなら『大栗先生の超弦理論入門』へ進むのがよいと思う。
今後のヒッグス粒子関連の続報を楽しむには、『強い力と弱い力』を読んでおきたいところだが、大栗博司の本をまだ読んでいない方であれば、まずは『重力とは何か』を読んでみるのがよいのではないだろうか。
- 著 者:
- 大栗博司
- 出版社:
- 幻冬舎
大栗博司 profile
カリフォルニア工科大学カブリ冠教授、東京大学カブリ数物連携宇宙研究機構主任研究員。1962年生まれ。京都大学理学部卒業。京都大学大学院修士課程修了。東京大学理学博士。プリンストン高等研究所研究員、シカゴ大学助教授、京都大学助教授、カリフォルニア大学バークレイ校教授などを経て、現職。アスペン物理学センター理事でもある。アメリカ数学会アイゼンバッド賞、フンボルト賞、仁科記念賞、サイモンズ賞、アメリカ数学会フェロー。
(引用、終)
2014年5月 カリフォルニア工科大学ウォルター・バーク理論物理学研究所 初代所長就任