虹の解体ーーいかにして科学は驚異への扉を開いたか
書籍情報
- 著 者:
- リチャード・ドーキンス
- 訳 者:
- 福岡伸一
- 出版社:
- 早川書房
- 出版年:
- 2001年3月
この本で著者ドーキンスがしたいことは、「科学における好奇心(センス・オブ・ワンダー)を喚起すること」(本書より)
著者は、つぎのように述べている。
「科学がもたらす自然への畏敬の気持ちは、人間が感得しうる至福の経験のひとつであるといってよい。それは美的な情熱の一形態であり、音楽や詩がわれわれにもたらすことのできる美と比肩しうるものである。それはまた、人生を意義あるものにする。人生が有限であることを自覚するとき、その力はなおさら効果を発揮する」
「本書のタイトルは、キーツから借用した」そうだ。キーツは、「ニュートンが虹を科学的に説明したことによって、その詩性を解体してしまったと非難した」という。
しかし、「ニュートンによる〝虹の解体〟は、天体望遠鏡につながり、ひいては現在、われわれが宇宙について知り得ていることを解く鍵をもたらした。ロマンティックという形容詞で語られる詩人なら誰でも、アインシュタイン、ハッブル、あるいはホーキングが語る宇宙のありさまを聞いて心弾まずにはいられないはずである」と著者は述べる。
本書は、読者に向けて、「光」と「音」を〝解体〟してみせる。これらの章にはそれぞれ、「星の世界のバーコード」「空気の中のバーコード」というタイトルがついている。
また、「法の世界のバーコード」という章では、DNA鑑定について論じている。
そして著者は、超常現象や占星術を批判し、そのあとで「神秘の解体」を行なう。この「神秘の解体」という章では、一見すると神秘的に思える「偶然の一致」が、その確率を考えてみると、じつはそれほど稀なことではないことを、さまざまな事例をあげて説明している。では、なぜ人は、そのような「偶然の一致」に驚きやすく、また、本来ランダムなものに対してパターンを見出そうとする傾向があるのか。著者は進化論の観点から論じており、その最後のほうでこう記している。「直観的な統計学を司る脳の部位は、今なお石器時代のままである」と。この章では、「詳細にはわたらないが、統計学の原理に関するいくつかの説明」もある。
後半には、「利己的な協力者」という章がある。ここでは、「遺伝子は、ある面では純粋に利己的でありながら、同時に相互協力的な同盟に参入するのだ」ということを論じている。
「遺伝子版死者の書」という章のタイトルも印象的だ。この章の最後のほうでこう述べている。「DNAとは、自分たちの祖先たちが生きぬいてきた世界についての暗号化された記述である。(中略)われわれはアフリカ鮮新世をデジタル記録した図書館であり、さらにはデボン紀の海のデジタル記録でさえある。古き時代からの知恵を詰め込んだ、歩く宝物庫なのだ」
他にも、脳の進化など、さまざまな話題がある。
ひとこと
つぎの言葉も印象に残った。「あまりに身近にありすぎて麻痺してしまった感覚がある。日常のうちにうもれてしまった感性がある。身近さや日常は感覚を鈍らせ、私たちの存在に対する畏敬の念を見えなくする」