<眠り>をめぐるミステリーーー睡眠の不思議から脳を読み解く
書籍情報
- 著 者:
- 櫻井武
- 出版社:
- NHK出版
- 出版年:
- 2012年2月
驚くべき睡眠病や創作に見られる睡眠をとりあげながら、脳科学の知見に基づいて睡眠を解説する
覚醒を制御する脳内物質「オレキシン」の発見者である櫻井武が、驚くべき睡眠病の事例を紹介し、睡眠とはいったい何なのか、なぜそのようなことが起こりえるのか、脳科学の知見に基づいて解き明かしていく。
冒頭でとりあげられている睡眠病は、「致死性家族性不眠症(FFI)」。これは脳の「視床」という領域が主に侵される病気で、眠れなくなり(正確には「深い眠り」がなくなる)、最終的に死に至るという。まずはこの病を紹介し、ここから睡眠の役割を見ていく。ここでは「レム睡眠」や「ノンレム睡眠」など睡眠の基本や、記憶と睡眠の関連などが解説されている。
眠りながら行動してしまう病気は、「睡眠時随伴症(パラソムニア)」と呼ばれている。有名なものには、睡眠時に徘徊する「夢遊病」(夢中遊行)がある。他には、食事をしてしまう(料理をすることもある)「睡眠関連摂食障害」、眠ったまま性行為をする「セクソムニア」などがある。驚くべきことに、車を運転し殺人を起こした事例まである。これらは「ノンレム睡眠」のあいだに起こるもので、本書では「ノンレムパラソムニア」と呼んでいる。
では、「ノンレムパラソムニア」はなぜ起こるのか。この理解のために、「実は運動には本質的には意識は必要ない」ことが説明される。ここではとくに「大脳基底核」について解説されている。そしてもうひとつ、睡眠が「脳全体」ではなく「脳の部分」で起こるという「ローカルスリープ」(局所的な睡眠)が解説される。これらの解説をとおして「ノンレムパラソムニア」を解き明かす。
「睡眠時随伴症(パラソムニア)」のうち、「レム睡眠」のあいだに起こるものは、「レム睡眠行動障害」と呼ばれている。このレム睡眠行動障害の解説や、夢の考察などを交えながら、レム睡眠のメカニズムや役割が述べられる。
また、睡眠病「ナルコレプシー」をとりあげ、ここから覚醒のメカニズムを解説している。ナルコレプシーは、著者が発見した「オレキシン」と関係があると考えられている。
最終章では、創作に見られる眠りをとりあげて睡眠を解説し、「全体のまとめ」としている。
ひとこと
本書は、睡眠障害を知るための本ではなく、睡眠を脳科学の知見に基づき知るための本。
各章末には次の5つのコラムがある。「睡眠・覚醒のステージとは?」、「睡眠負債(睡眠圧)とツー・プロセスモデル」、「脳幹による睡眠・覚醒の切り替え機構」、「視床下部による睡眠・覚醒制御」、「睡眠・覚醒をコントロールする脳内物質」