これが物理学だ!
著 者:
ウォルター・ルーウィン
出版社:
文藝春秋
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デカルトの誤り
著 者:
アントニオ・R・ダマシオ
出版社:
筑摩書房
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宇宙を創るダークマター
著 者:
キャサリン・フリース
出版社:
日本評論社
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意識と自己
著 者:
アントニオ・R・ダマシオ
出版社:
講談社
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物理学者のすごい思考法
著 者:
橋本幸士
出版社:
集英社インターナショナル
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量子革命
著 者:
マンジット・クマール
出版社:
新潮社
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音楽嗜好症(ミュージコフィリア)ーー脳神経科医と音楽に憑かれた人々

書籍情報

【ハヤカワ文庫NF】
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著 者:
オリヴァー・サックス
訳 者:
大田直子
出版社:
早川書房
出版年:
2014年8月

音楽と精神・身体との不可思議な関係を浮き彫りにする

本書は4部(29章)からなる音楽をテーマにした医学エッセイ。

第1部では、雷に打たれたあと別人のようにピアノ演奏と作曲にのめり込み才能を開花させた人、音楽に反応して発作を起こす人、音楽の幻聴を経験する人など、「音楽に憑かれた人々」を描く。

第2部では、絶対音感をもっているのに音楽の才能がない人、メロディーを認識できないなどの失音楽症、音楽サヴァン症候群など、「音楽の才能」について見ていく。

第3部では、記憶や運動の障害と音楽について考察する。新しい記憶を保持できず昔の記憶もほぼ失ったが音楽の能力を持ち続けている音楽家や、失語症やパーキンソン病における音楽療法の話題などが登場。

第4部では、感情と音楽について論じる。音楽に強い愛着をもち饒舌で社交的なウィリアムズ症候群や、認知症における音楽の効果などについて述べている。

サヴァン症候群やウィリアムズ症候群の神経基盤など、さまざまな神経科学的な考察がある

知的障害などをもち、音楽や絵や計算などにおいて驚異的な特別な能力をもつサヴァン症候群。その特徴は「特定の能力が高まる一方で、ほかの能力には障害や発達不全がある」ことで、「高まるのが例外なく具象的な力であるのに対し、弱いのは抽象的な力、たいていは言語能力である」という。

右脳半球は左より早くから発達するので、「知覚機能は生後数日ないし数週間で確立される」。左脳半球のほうが発達に時間がかかるが、「発達して独自の(おもに概念形成と言語の)能力を獲得すると、右脳半球の(知覚)機能の一部を抑制したり阻止したりするようになる」。

胎児や乳幼児の左脳半球に損傷が起こると、「右脳半球の代償的過剰発達」が起こるかもしれないという。「これが正常な流れを逆転させ、ふつうは左脳半球が優位になるところが、変則的に右脳半球が優位になる場合がある」。サヴァン症候群では、このような右脳半球優位への転換が起こっているのではないかという見解を紹介している。

また、左側頭葉の損傷のあとサヴァンに似た才能が現れた事例や、左側頭葉に損傷のある患者が芸術や音楽の能力を発現させた事例について述べている。

ほかにも、ウィリアムズ症候群の神経基盤、プロの音楽家や絶対音感をもつ人の脳の構造についてなど、さまざまな神経科学的な考察がある。

失語症、パーキンソン病、認知症における音楽療法の効果を綴る

重い表出性失語症にかかり、集中的な言語療法を行ってもまったく話ができなかった患者が、音楽療法を行ううちに発話の兆しを見せ始め、質問に対して短いが適切な答えを返せるようになった事例を紹介している。

失語症に対して音楽療法が効果を発揮するような場合、脳のなかでは何が起きているのか。そのような考察もある。

失語症、パーキンソン病、認知症、それぞれの症状における音楽療法のあり方は異なるという。たとえば、「失語症の場合、歌詞のある曲や抑揚をつけたフレーズを使う必要があり、療法士との交流も欠かせない」。

最終章では、認知症に対する音楽の効果について綴っている。重篤な認知症の人たちが音楽に注意を引きつけられ、無気力などのそれまでの様子を一変させるところが印象に残る。

言語、身体、精神、それらと音楽との関係についてもっと知りたくなる一冊。

感想・ひとこと

神経科学的な考察が豊富で読み応えがある。そのような本が苦手でなければおすすめできる。なお、この書評は単行本(出版年:2010年)を読んで書いたが、リンク先は文庫版。

初投稿日:2023年07月24日

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