感じる脳ーー情動と感情の脳科学よみがえるスピノザ
書籍情報
- 著 者:
- アントニオ・R・ダマシオ
- 訳 者:
- 田中三彦
- 出版社:
- ダイヤモンド社
- 出版年:
- 2005年11月
「感情の神経生物学」の本。見方をかえれば、神経生物学の見地からスピノザを論じることを試みた本
本書は、スピノザに照らしながら「感情」を論じている本であり、「感情の神経生物学」の本と捉えるのが適切なのかもしれない。しかし著者ダマシオのこころは、スピノザを論じること、またスピノザに照らしながら「神経生物学」の立場から「倫理」や「幸福」を論じることにあるように思える。原題は『Looking for Spinoza』(副題は省略)
著者は、感情についてこう述べている。「感情は有機体全体の命の状態の<顕れ>と見ることができるし、また実際しばしばそうである」と。「ポジティブ」な感情や「ネガティブ」な感情についても、「有機体の状態」という観点から説明する。
たとえば、ポジティブな感情は、「命のプロセスの調節がより効率的に、いや場合によっては最適になり、思うままに流れ、よどみがない、そういう有機体の状態」に伴う感情だという。
では、感情の基盤は何だろうか。脳は、刻一刻と変化していく身体状態をマッピングしている。この脳のなかの「身体マップ」が、感情の基盤だという。「身体マップ」は、いくつかの脳部位が関与しているニューラル・マップだが、著者が感情の基盤としてとくに重要視している脳部位は「島皮質」のようだ。
こうした感情のメカニズムや感情の存在理由などを論じたあとで、ひとつの章を割いて、スピノザの人物像をその時代背景とともに描き出すことを試みる。最終章では、スピノザに照らしながら「神経生物学」の立場から、倫理や幸福について語る。
感情を、そしてスピノザを論じる本書にふさわしく、最後には、「希望」という感情について述べたスピノザの言葉が置かれている。
ひとこと
「情動」や「感情」の定義など、ダマシオの前著を読んでいない読者に向けた解説もある。これまでのダマシオの仮説などをまとめつつ、感情とスピノザに焦点をあてて論じている。