延長された表現型ーー自然淘汰の単位としての遺伝子
書籍情報
- 著 者:
- リチャード・ドーキンス
- 訳 者:
- 日高敏隆/遠藤彰/遠藤知二
- 出版社:
- 紀伊國屋書店
- 出版年:
- 1987年7月
前著『利己的な遺伝子』の続編。本書について著者はこう述べる。「私は、その利己的遺伝子を生物個体という概念的監獄から解放してやるつもりなのだ」(「まえがき」より)
この本は、前著『The Selfish Gene』(邦訳の書名/第一版『生物=生存機械論』/第二版以降『利己的な遺伝子』)のなかの「いくつかの方向への続篇」だという。
本書について、著者はつぎのように述べる。
「適応が何か「にとっての善」として扱われるべきだとすると、その何かとは遺伝子である――この信念は、私の前の著作の基本的な仮説であった。本書はさらにその先へ進む。少し劇的に表現しよう。私は、その利己的遺伝子を生物個体という概念的監獄から解放してやるつもりなのだ。ある遺伝子の表現型効果は、その遺伝子を次世代に押し込む道具であり、これらの道具はその遺伝子の位置している体の外へもはるかに「延長されて」おり、他の生物体の神経系のなかへまで深く到達してさえいるのである」
全14章のうち、11〜13章でメインテーマの「延長された表現型」を論じている。
まず、延長された表現型として、動物の造作物(クモの網、ビーバーのダム、シロアリ塚など)について論じる。
つぎに、「寄生者の遺伝子が寄主の体や行動に表現型発現をもつ」という考えを述べる。たとえば、吸虫に寄生されたカタツムリであれば、カタツムリの「殻という表現型はカタツムリ遺伝子とともに吸虫遺伝子によっても影響を受けた一つの共有された表現型」とみなすことができるという。寄主の体や行動を、その内部にいる寄生者の遺伝子の延長された表現型発現とみなすことができるのだと、さまざまな事例をあげて論じている。
さらに、遺伝的「遠隔作用」という概念に発展させて、延長された表現型を論じていく。これは、ある個体に存在している遺伝子が、直接つながりのない他の個体に影響を及ぼす、という形での「延長」のようだ。ここでは、「ブルース効果」の例で説明している。ブルース効果とは、「ある雄によって受精したばかりの雌のマウスは、二番目の雄からの化学的影響にさらされるとその妊娠を妨げられる」というものだそうだ。この場合の雌のマウスの流産は、「雄のマウスの遺伝子の表現型効果」とみなせるという。段階を追って説明している。
本書は、「読者が進化生物学とその学術用語についての専門的知識をもっていることを前提にしている」。だが、専門外の人たちも「見物人としてある専門書を楽しむことはできる」と著者はいう。この本の草稿を読んだ何人かの専門外の人たちは、「とても親切にまたとても礼儀正しく、これを気に入った」と述べたそうだ。巻末には、専門外の人たちのために「用語解説」を加えている。
ひとこと
本書は、このレビューを書いている現在、入手困難になっている。