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出版社:
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プリオン説はほんとうか?ーータンパク質病原体説をめぐるミステリー

書籍情報

【ブルーバックス】
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著 者:
福岡伸一
出版社:
講談社
出版年:
2005年11月

ノーベル賞を受賞したセオリーである「プリオン説」を、批判的に再検討した一冊

著者は本書を「誤解を恐れずに言えば、ノーベル賞評価への再審請求ととれるかもしれない」という。

1997年、スタンリー・プルシナーは、ノーベル生理学・医学賞を受賞した。ノーベル委員会の発表した授賞理由は、「新しい感染原理、プリオンの発見に対して」というもの。

牛の狂牛病(BSE)、羊のスクレイピー病、そしてヒトのクロイツフェルト・ヤコブ病、(他にもあるが)、これらは同じ病気だという。プリオン病と総称されているが、正式名称は「伝達性スポンジ状脳症(伝達性海綿状脳症)」。プルシナーは、この感染症を媒介する病原体として、「細菌でもなく、ウイルスでもない、まったく新しい病原体として「プリオン」という概念を提唱した」。このプリオン説の核心を、著者はつぎのように述べている。

「プリオン説の本質は、スポンジ状脳症の病原体の正体が、タンパク質であるとする点だ。従来、病原体は細菌にしろ、ウイルスにしろ、すべて遺伝子(DNAもしくはRNA)を持っていた。だからこそ、宿主の内部に侵入した後、その遺伝子のコピーを増やして増殖することができたのである。(中略)ところが病原体プリオンには遺伝子がない。タンパク質だけから成り立っている」。「プリオン説では、タンパク質そのものが単独で、感染し、増殖し、伝達性スポンジ状脳症という病気を引き起こすというのである」

「生命科学の共通認識から逸脱したプリオン説」は、発表当初から「ずっと激しい反論の嵐にさらされ」、「このような空想的な仮説は、早晩、科学史のあだ花として葬りさられる運命にあると」思われていた。

ところが、プリオン説を支持するデータが次々に集まってくる。そして、ついに、プルシナーはノーベル賞を手中に収めた。「「かつて異端の説がいまや正教になった」と彼は高らかに勝利宣言をした」という。

本書では、プリオン説がどのようなもので、どのようなデータによって支持されているのかを丁寧に解説している。たとえば、「ノックアウトマウス(遺伝子操作をして特定の遺伝子を働かなくしたマウス)実験や家族性プリオン病の原因遺伝子の特定」は、プリオン説を強力に支持する証拠だという。

そして、高く評価されるべき点についても述べている。こんな記述がある。「プルシナーによる異常型プリオンタンパク質の発見は、伝達性スポンジ状脳症のマーカーとして唯一の明確な生化学的診断法に道を開いた。この点は、どれだけ高く評価されてもされすぎということはないはずである」と。

そのあとで著者は、プリオン説の「弱点」を浮き彫りにしていく。「病原体の特定を行ううえで科学的なクライテリア(基準)として「コッホの三原則」がある」と述べ、このエッセンスを整理する。そして、コッホの三原則に照らしながら、また、「バイオアッセイ」などの実験手法の解説を織り込みながら、さらにプルシナーのデータを再検討しながら、プリオン説の「弱点」を論じていく。

では、プリオン説に代わる仮説はあるのか。著者は、「レセプター仮説」を紹介する。この仮説の骨子を三つあげているのだが、その一つは「伝達性スポンジ状脳症の真の病原体は、異常型プリオンタンパク質ではなく、未知のウイルス(あるいは何らかの核酸を持った病原体)だと考える」というもの。

「レセプター仮説」を検討したあとで、伝達性スポンジ状脳症の「ウイルス核酸」を探索する著者らの実験手法とその結果を論じる。著者らが捉えた「核酸」の特徴を述べるあたりの記述に引き込まれる。

本書は、狂牛病(BSE)をめぐる経緯、伝達性スポンジ状脳症の研究史(たとえば、ノーベル生理学・医学賞を受賞したガイジュセックの話題など)を論じることからはじめている。

ひとこと

科学的な筆致で描くことに徹した(叙情的ではない)福岡伸一の本。プリオン病やプリオン説がよくわかる、感染症の病原体をつきとめていく生物学的手法が丁寧に解説されている、科学データは読み解き方によって異なった解釈が可能となる場合があることがわかる、など、2005年出版の本だが、いまでも読む価値のある良書だと思う。

初投稿日:2016年06月11日

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