これが物理学だ!
著 者:
ウォルター・ルーウィン
出版社:
文藝春秋
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デカルトの誤り
著 者:
アントニオ・R・ダマシオ
出版社:
筑摩書房
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宇宙を創るダークマター
著 者:
キャサリン・フリース
出版社:
日本評論社
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意識と自己
著 者:
アントニオ・R・ダマシオ
出版社:
講談社
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物理学者のすごい思考法
著 者:
橋本幸士
出版社:
集英社インターナショナル
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量子革命
著 者:
マンジット・クマール
出版社:
新潮社
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動的平衡ダイアローグーー世界観のパラダイムシフト

書籍情報

【単行本】
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著 者:
福岡伸一
出版社:
木楽舎
出版年:
2014年2月

「世界のありようを、動的平衡の視点から論じ合った記録」(本書「プロローグ」より)

対談したのは、つぎの8人。カズオ・イシグロ、平野啓一郎、佐藤勝彦、玄侑宗久、ジャレド・ダイアモンド、隈研吾、鶴岡真弓、千住博。

カズオ・イシグロ(作家)との対談

万物は流転する。

福岡伸一は、ルドルフ・シェーンハイマーの実験を紹介し、つぎのように述べる。「その結果、私たちの体は、分子や細胞レベルで絶えず分解され、入れ替わり、再構成されていることがわかりました。私たちの体は、いわば、それを構成する要素が生み出す「流れ」そのものです。(後略)」。「もしも生命がそのように肉体にもとづくものでないなら、私たちはいったいどうやって「私は私である」というアイデンティティを保つことができるでしょうか。何を根拠に、自分が一貫した存在だといえるのか。それを支えるのが「記憶」なのではないでしょうか」

カズオ・イシグロにとって「記憶」は「常に重要なテーマ」。「私にとって小説を書くことは、薄れゆく記憶を永遠に固定する手段でした」という。「ノスタルジーを掻き立てる幼少期の記憶」、社会や国の記憶、と話は広がっていく。そして最後のほうで、イシグロは、ジョージ・ガーシュウィンの曲を紹介して、こう述べる。「つまり記憶とは、死に対する部分的な勝利なのです」と。

平野啓一郎(小説家)との対談

平野啓一郎は、「自分なりにこれまでのアイデンティティに代わる新しい思想を考え始め、やがて「分人」という概念にたどり着いたんです」という。

福岡伸一は、そのコンセプトを「とても面白いと思った」と述べ、「今日はぜひ、「分人」とアイデンティティの問題についてうかがいたいと思います」といって、つぎのように質問した。

「私たち現代人は、個人のアイデンティティというものを、もともと与えられた唯一無二の本質のように思ってしまいがちです。でも、『私とは何か』のなかで、平野さんは、それを対人関係ごとに生じる「分人」という複数の人格として捉え、人間をその集合体であると考えていらっしゃいます。こういう発想は、どこから生まれたんですか」

平野は、「僕はもともと、接する相手によって自分のなかに異なる人格が現れることを意識していたんです」と答え、話を続けていく。

佐藤勝彦(自然科学研究機構長・東京大学名誉教授)との対談

宇宙論の研究者・物理学者である佐藤勝彦と、生物学者である福岡伸一の対談。生命誕生にまつわる二人の見方は異なる。

福岡はこう述べる。「生命の誕生まで八億年という時間は、一見長いように見えて、生命の歴史全体からすればあまりにも短い。(中略)おそらく最も困難なのは、何もないところから動的平衡そのものを生み出すことです。そのためのトライ・アンド・エラーの期間がたった八億年というのは」足りないように思える、と。

一方、佐藤はこんなふうに述べる。「福岡さんは八億年でも足りないといわれましたが、「地球の生命誕生に要した時間は一億年程度だった」という説もありますね。知的生命体は別として、私も、単細胞程度の生命なら、意外と簡単に生まれるのではないかと思うんです」と。

異なる見解の〝静かな交換〟とでもいうようなトークがなされている。

福岡が冒頭で投げかけた対談のテーマは、「地球外生命」。少年時代の話もあり、佐藤は湯川秀樹に憧れ、福岡は今西錦司に憧れた。

玄侑宗久(作家・僧侶)との対談

福岡伸一の「動的平衡」の話を受けて、玄侑宗久はこう述べる。「そのような生命観は、そのまま仏教の生命観に通じるものです。仏教では命を大きな一つの流れとして捉えてきました。(中略)命は、絶えず姿を変えて展開していくものなんです」と。

そして、二人の話は、鴨長明の『方丈記』にたどり着く。玄侑はこう述べている。「福岡さんは、「生命が流れだ」ということをおっしゃるとき、鴨長明の『方丈記』を引かれていますよね。「ゆく河の流れは絶えずして、しかも、もとの水にあらず。よどみに浮かぶうたかたは、かつ消え、かつ結びて、久しくとどまりたる例なし」という、あの冒頭は見事だと思うんですが」

福岡は、「見事です」と同意したあとで、こう質問する。「玄侑さんも、東日本大震後に出版された『無常という力』というご著書で、『方丈記』を取り上げられていますよね。いまなぜ『方丈記』を通して「無常」を語ろうと思われたんですか」

その質問に対する玄侑の長い答えのキーワードは、「揺らぎ」

ジャレド・ダイアモンド(カリフォルニア大学ロサンゼルス校 地理学教授)との対談

「ダイアモンドさんは〝現代のダーウィン〟とも評されていますね」という福岡伸一の言葉からこの対談ははじまる。そして著書の話となり、福岡はこんなふうに述べる。「本書では、いまいわれたとおり、じつに多彩なテーマが縦横無尽に語り尽くされていますね。読んでいると、こんなことのできるジャレド・ダイアモンドとは、いったい何者なのかという気もしてきます」

ダイアモンドは、「では、ちょっとご説明しましょう(笑)」といい、生まれ、名前のこと、そして「三つの専門分野」を語っていく。

そして、「体罰」や「高齢者」をテーマにして二人は語り合う。たとえば、福岡はこんな質問をする。「体罰を容認する社会と、絶対に体罰を許さない社会があるとして、この二つを分けるものは何だとお考えですか」と。ダイアモンドは、「私なりの仮説ですが、生業形態によるのかもしれません」と答え、伝統的社会の例をあげる。そして、つぎのようなダイアモンドの発言がある。

「体罰のないニューギニアの伝統的社会における大人と子どもの関係は、私の目には素晴らしいものに映りました。ニューギニアでは子どもの独立心が非常に強く、自信をもって、自分のことは自分で決定します」と。

隈研吾(建築家)との対談

「メタボリズム」の話が登場。福岡伸一はこんなふうに質問する。

「(前略)「メタボリズム」というのは、日本が高度経済成長に向かうころ、メタボリズム(新陳代謝)という生命原理から建築や都市を構想した運動ですよね。例えばカプセル型の部屋を一単位として、古くなった部分を入れ替えながら、建物自体が新陳代謝していく。(中略)まさに都市がこれから拡張していこうとする時代に、建築や街づくりに「生命的なもの」を求めた、その志はよかったと思うんです。ところが実際には、それらの建築物は一度も新陳代謝せずに、つまり、古くなった部分が取り替えられることなく終わってしまった。隈さん、あれはなぜだと思われますか」

隈は、「あの運動は、一口にいって非常に頭でっかちなプロジェクトだったんです」と答え、そのことについて語っていく。

そして二人の話は、「メタボリズム」から、「東北の被災地復興」へ。隈からはこんな発言が。「真っ白な紙なんて、どこにもない。消えたのは上物だけで、街の骨格も、人が暮らしてきた歴史もそこにある。そういうものにどう手を加えていくかが復興だ、という発想に立つべきじゃないでしょうか。(後略)」

この対談の最後で福岡は、「どうぞこれからも、新しい「粒」を発見して、生命的な建物をたくさんつくってください」という言葉をかけた。

鶴岡真弓(多摩美術大学教授・芸術人類学研究所所長)との対談

「鶴岡さんが研究されているケルトの文化は、独特の「渦巻文様」をもつことで知られていますね」と福岡伸一。

まず、「聖ブリギッドの十字架」の話。福岡は、「あの十字架には回転の動きが内包されている」といい、「と同時に、そこには「動きへのリスペクト」のようなものが込められていると感じました。こうした要素が、ケルトの渦巻文様とも関係するのではないですか」と述べる。

鶴岡は、「おっしゃるように、ケルトの渦巻文様は、決して止まることのない螺旋運動によって、生命的なものを表しています。(中略)ケルトの渦巻文様が「高速回転」するさまを見ていると、これは最も生命感にあふれている渦巻きの造形ではないかと思えます」という。

「渦巻」と生命、そして『ダロウの書』について二人は語り合う。

鶴岡からは、こんな発言も飛び出す。「ケルト芸術の表現にはある種の「諦念」のようなものが感じられるのです」。福岡は、「諦念?」とその説明を求める。鶴岡はその説明の最後にこう述べる。「それは生命の無限の動的平衡を表すものでありながら、同時に「メメント・モリ」の象徴ではないかとも思えますね」と。

千住博(日本画家・京都造形芸術大学教授)との対談

日本画家の千住博との対談は、「青」という色の話からはじまる。群青の岩絵の具、フェルメールの青、ルリボシカミキリの青、空の青、水の青、LEDの青い光、などなど。

そして、「青」の話から「美」の話へ。

福岡は、こんな質問をする。「フェルメールが自分の「部屋」を見つけたように、千住さんは「滝」を発見されたと思うんですが、滝とはまさに、常に水が流動する動的な存在ですよね。滝を描くにあたっては、やはり動きを絵のなかに捉えたいという思いがあったんでしょうか」

千住は、「(前略)あるとき、私は滝の動きを見て非常に感動したんです。それは、人類がなぜ芸術を生み出したのか、その起源にまで遡るような本能的な感動だった。そして、なんとかこの動きのプロセスをつかみ取りたい、描きたいと思ったんです」と答える。

また、最後のほうで千住は、滝は「ケオティック・オーダー(秩序ある混沌)」だという。そして、「ケオティック・オーダーとは、生命体そのもの」だと。

ひとこと

「プロローグ」で、著者の唱える「動的平衡」を概説している。

初投稿日:2016年02月04日

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