遺伝子のスイッチをオン・オフに制御する仕組み、エピジェネティクス

「エピジェネティクス」メインイメージ

遺伝子のスイッチをオン・オフに制御する仕組み、エピジェネティクス。この読書テーマは、喩えるなら、DNAがその身にまとう「服装」のはなし

(冒頭を変更して、DNAおよび遺伝子の説明を追加。この説明は、『細胞の中の分子生物学』(森和俊)より部分的に引用して組み合わせて作成した。また、同書の紹介文を最下部に追加した。2016.08.21)

「DNAの塩基としてアデニン(A)、グアニン(G)、チミン(T)、シトシン(C)の4種類」がある。「このうちの1つの塩基と、デオキシリボース、リン酸が結合したヌクレオチドという基本単位が一列に多数連なったのがDNA」だ。「どのヌクレオチドを見ても、デオキシリボースとリン酸部分は共通」なので、「個々のDNAを特徴づけているのは塩基部分」になる。「4つの塩基A、G、T、Cを文字と考え、それらがどのような順番でつながっているかという文字情報を「塩基配列」と呼んで」いる。「DNAの膨大な塩基配列のうち、タンパク質のアミノ酸配列を指定しているところを「遺伝子」と呼んで」いる。また、「DNA内の遺伝子情報をもとにタンパク質が作られることを「遺伝子の発現」」と呼ぶ。(『細胞の中の分子生物学』森和俊)

エピジェネティクスとは、ざっくりと捉えれば、遺伝子のスイッチをオンにしたりオフにしたりする仕組みのこと、といえるようだ。

もう少し言葉を足していうと、つぎのようになる。エピジェネティクスとは、「DNAの配列には変化を起こさないで遺伝子の機能を調節する仕組み」のこと。(『エピジェネティクス入門』佐々木裕之)

では、その仕組みはどのようなものだろうか。

喩えていうと、DNAは「裸」ではなく、「服」を着ている。DNAの装いは、Tシャツを着ていたり、コートを着ていたりと、さまざまだ。このDNAの「服装」によって、遺伝子のスイッチがオンになったり、オフになったりしている。

服装の喩えを用いて、エピジェネティクスのイメージを伝えているのは、『エピゲノムと生命』(太田邦史)だ。ちょっと長いが引用してみたい。

「実は我々の体の設計図であるDNAは「裸」ではありません。「ヒストン」という円盤状のタンパク質がDNAに数珠状に結合し、これが階層的に集合して、「クロマチン構造」や「染色体構造」と呼ばれる「服」を着たような状態になっています。そして、その着ている服の状態(どのような飾りがついているか、薄着か厚着かなど)が、所々で異なっています。Tシャツを着ているように比較的薄着の場所では遺伝子のスイッチがオンになり、喪服やコートなどの厚着をしている場所ではオフになっているのです。つまり、DNAの着ている「服」が、ドレスコードのように、一つの意味を持つ「コード(暗号)」を表現しているのです」

DNAの「服装」によって、遺伝子のスイッチがオンになったりオフになったりしているのであれば、「DNAの変装法」(『エピゲノムと生命』)は、具体的にはどのようなものだろうか。

それは、「ヒストン修飾」と「DNAメチル化」。したがって、エピジェネティクスとは何かを具体的にいうと、つぎのようになる。

エピジェネティクスとは、「ヒストンの修飾とDNAメチル化による遺伝子発現制御」である。(『エピジェネティクス』仲野徹)

ヒストン修飾にはいくつかあるが、現時点(2015年)では、一般書ではおもに「アセチル化」と「メチル化」の解説がなされている。ざっくり説明すると、つぎのような感じだ。ヒストンはタンパク質なので、アミノ酸から構成されている。そして、リジン、アルギニンといったアミノ酸をたくさん含んでいる。「アセチル化はリジンにアセチル基が、メチル化はリジンあるいはアルギニンにメチル基が付加される修飾である」(『エピジェネティクス』仲野徹)

DNAメチル化とは、ざっくり説明すると、DNAにメチル基が付くことで、「シトシン(C)」に付くようだ。

そして、『エピジェネティクス』(仲野徹)では、覚えておくべきポイントをこう述べている。「ヒストンがアセチル化をうけると遺伝子発現が活性化される」、「DNAがメチル化されると遺伝子発現が抑制される」。同書によると、これが「基礎の基礎」だという。

ここで、エピジェネティクスを知るために、もうひとつ言葉を足しておきたい。それは、「遺伝子のスイッチのオン・オフは細胞分裂を経て安定に伝達される」(『エピジェネティクス入門』佐々木裕之)ということ。

具体的にはどういうことかというと、同書ではこう述べている。「いったん特定の種類の細胞に分化すると、その特徴を失うことなく細胞分裂を続けます。結合組織を作る線維芽細胞は何度分裂しても線維芽細胞であり、肝臓の肝細胞は何度分裂しても肝細胞です」と。

私たちの体には、形も働きも異なる何種類もの細胞がある。ところが、細胞の種類が異なっても、基本的に同じ塩基配列を持っている。私たちの体のほぼすべての細胞はそれぞれ、基本的に受精卵と同じDNAを持っており、つまり体全体をつくりだすのに必要な情報をすべて持っている。では、各細胞の個性はどのようにして生み出されているのだろうか。それは、どの遺伝子のスイッチがオンになるか、その組み合わせの違いによって生み出されているそうだ。そして分化が終わると、肝細胞であれば何度分裂しても肝細胞であるというように、遺伝子のスイッチのオン・オフは、安定的に維持される。

ここまでのところをまとめてみたい。DNAの塩基配列には変化を起こさないで、ヒストン修飾とDNAメチル化によって遺伝子のスイッチをオン・オフに制御する。いったん特定の種類の細胞に分化すると、遺伝子のスイッチのオン・オフは細胞分裂を経て安定に伝達される。

エピジェネティクスの定義は、かなり広汎なようだが、『エピジェネティクス入門』(佐々木裕之)では、その定義をつぎのように述べている。「エピジェネティクスは「DNAの配列に変化を起こさず、かつ細胞分裂を経て伝達される遺伝子機能の変化やその仕組み」または「それらを探究する学問」と定義されています」と。

定義はさまざまなようだが、最もすっきりとする覚え方は、先に述べた、エピジェネティクスとは「ヒストンの修飾とDNAメチル化による遺伝子発現制御」である(『エピジェネティクス』仲野徹)、という覚え方ではないだろうか。「ヒストン修飾」と「DNAメチル化」という言葉は、エピジェネティクスを知るうえでのキーワードなので、この覚え方がすっきりとしているように私には思える。

そして心に留めておきたいことは、ヒストン修飾とDNAメチル化は、不変ではなく、「可変」であるということ。そのため、これらの制御に注目が集まっているようなのだ。

エピジェネティクスの解説書には、「ゲノム刷り込み(ゲノムインプリンティング)」や「X染色体の不活性化」など、生命の複雑さが感じられる興味深い話題が登場する。

生命という、最も身近にある極上のミステリーを読むために、つぎつぎと押し寄せる専門用語の〝荒波〟にもまれ、海水を飲まされ続けるような読書も、それはそれでおもしろい。

エピジェネティクスを知る書籍

初投稿日:2015年10月20日
最終加筆:2016.08.21

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