細胞の中の分子生物学ーー最新・生命科学入門
書籍情報
- 著 者:
- 森和俊
- 出版社:
- 講談社
- 出版年:
- 2016年5月
「京大理学部での講義の集大成」。本書の下地になっているのは、「文系の人や高校で生物をまったく履修しなかった人から、生物で大学受験をした人まで、まったくヘテロ(異質)な集団」が受講生の講義
「おわりに」で、本書について述べているところを紹介したい。
著者がこれまで担当してきた講義のなかに、全学共通科目「生命現象の生物物理学」があるそうだ。本書の下地になっているこの講義について、つぎのように述べている。
「この講義は誰が受講してもよく、文系の人や高校で生物をまったく履修しなかった人から、生物で大学受験をした人まで、まったくヘテロ(異質)な集団でした」
「このような受講生相手に90分2回の講義で、ワトソンとクリックから始めて最後は小胞体ストレス応答までもって行きました」
「難しすぎると、生物の素人は付いて来られません。やさしすぎると、生物で大学受験した人にはつまらないものになりますから、基本的な説明にはノーベル賞ネタを盛り込む等いろいろと工夫をしました」
「本書は、この「生命現象の生物物理学」2回分の講義を下地にして、2回生向け「分子生物学」と「細胞生物学」の講義のエッセンスを加味し、一般の方々を対象として書き下ろしたものです。いわば、私の京大理学部での講義の集大成ともいえます」
本書のハイライトは、「小胞体ストレス応答」の解説。著者・森和俊は、小胞体ストレス応答の研究が「極めて高く評価され」、2014年にピーター・ウォルターとともに「アメリカのノーベル賞といわれるアルバート・ラスカー基礎医学研究賞」を受賞した
本書では、小胞体における、タンパク質の「品質管理」のしくみを解説している。
「セントラルドグマ(DNA→RNA→タンパク質)にしたがって、リボソームで合成された直後のタンパク質はすべて、多数のアミノ酸がN末端からC末端に向かって一列に並んだ、いわばひものような状態」だ。「しかしながら、私たちは3次元の世界で生きて」いる。「タンパク質も、それぞれの役割に適した3次元の立体的な形をとることによってはじめて正しく働くように」なる。
タンパク質が立体的な形(立体構造)をとることを、タンパク質の「高次構造形成」という。「英語ではプロテイン・フォールディング(protein folding)と呼び、タンパク質の折り畳み」と訳される。
「西洋の貴族社会では、お嬢様がある年齢に達すると社交界にデビュー」するが、「初めのうちは作法をよくわきまえた年配の婦人が寄り添って、今何をすべきかを指南して(教え導いて)あげる」という。この指南役が「シャペロン」だ。
「すべての細胞内には、「分子シャペロン」と総称される特殊なタンパク質群が用意されていて、この分子シャペロンがタンパク質の高次構造形成を助けている」という。
「小胞体シャペロン」は、小胞体において、タンパク質の高次構造形成を助けている。そして、小胞体では、正しい高次構造を形成したタンパク質だけを「出荷」し、「不良品」タンパク質は小胞体に留め置かれる。
この「不良品」タンパク質は、小胞体シャペロンが「再び高次構造形成を手助けし直すか」、「不良品」タンパク質を細胞質へ「つまみ出す」ときに働く多数のタンパク質によって、細胞質へ「つまみ出されて」、ユビキチン化され、プロテアソームによって分解されるらしい。「この細胞質で分解するための一連のシステムは、小胞体に関連した分解ということで、「小胞体関連分解」と呼ばれることに」なった。
小胞体内に、「不良品」タンパク質すなわち立体構造が異常なタンパク質がいつも以上に蓄積することを「小胞体ストレス」と呼ぶ。また、細胞が示す反応のことを「応答」という。「小胞体ストレス応答」とは、小胞体内に立体構造が異常なタンパク質がいつも以上に蓄積した時に示す細胞の反応のこと。この「小胞体ストレス応答」がどのようなもので、どのような仕組みによるものかを解説するのが本書のハイライトだ。
このハイライトを読者が理解できるように、DNAやRNAおよびタンパク質の基礎から解説を始め、これらの関係を〝詳細に〟述べる。それから、「細胞内小器官」(オルガネラの訳は、「細胞小器官」よりも「細胞内小器官」が良いと著者はいう)の基礎、タンパク質の「輸送」や「形成」や「分解」について、〝詳細に〟解説している。
ひとこと
第3章までの約100ページで、DNA、RNA、タンパク質、そしてこれらの関係の基礎を〝学ぶ〟ことができる。