もの忘れの脳科学 ——最新の認知心理学が解き明かす記憶のふしぎ

書籍情報

【ブルーバックス】
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著 者:
苧阪満里子
出版社:
講談社
出版年:
2014年7月
定 価:
本体800円+税

認知神経心理学を専門とする著者が、ワーキングメモリを解説。「こころの中のメモは消えやすく、またどこかにまぎれやすいものである」

「もの忘れ」といえば、高齢者の特徴だと思われるかもしれない。しかし、そうではないという。「もの忘れ」は、年齢によらない誰もが経験することだという。著者らが実施した「もの忘れ」に関するアンケートによると、大学生にも「もの忘れ」の経験があり、その頻度は高齢者にも劣らないほどだった。

では、なぜ人は「もの忘れ」をするのか。著者は、こう記す。「もの忘れは、行動をする間に、その目標を忘れてしまうことに起因していると考えられる」と。

私たちの日常は、「行動しながら記憶しなければならない場合がほとんどだ」。たとえば、サラダドレッシングを買いにスーパーに出かけたら、他の新鮮野菜を見たり、あるいは知人と話したりしても、その間ずっとサラダドレッシングを買うことを「こころの中にとどめておく」必要がある。

このような、「これからの行動に必要な内容を、一時的にこころの中にとどめておく記憶はワーキングメモリ(working memory)と呼ばれている」。著者は「こころの黒板」、「こころの中のメモ」と表現している。「こころの中のメモは消えやすく、またどこかにまぎれやすいものである」

「私たちが普段経験する「もの忘れ」は、「ワーキングメモリ」がうまくはたらかないために起こることが多い」という。本書「もの忘れの脳科学」は、認知神経心理学を専門とする著者が、「リーディングスパンテスト(Reading span test RST)」というワーキングメモリを測るテストを用いた実験を中心に据えて、「ワーキングメモリ」について論じたもの。

ワーキングメモリのモデル。中央実行系と3つのサブシステム

「英国の心理学者バドリーとヒッチは、記憶する内容は、同時に処理している内容に影響を受けると考えた」。「バドリーたちは、単に記憶するだけでなく、記憶と処理を同時に支えるシステムとしてワーキングメモリを想定したのだ」

まず、「1986年のバドリーによるワーキングメモリのモデル」を紹介している。

モデルの中心にあるのが「中央実行系」。この中央実行系のサブシステムとして、「短期貯蔵」の役割をする2種類のシステム、「音韻ループ」と「視覚・空間的スケッチパッド」が想定されている。

「……略……中央実行系は、記憶しなければならない情報に注意を向けるなどの役割を担い、処理と保持を調整するなど、いわば、ワーキングメモリの司令塔であると考えられる」

サブシステムのひとつ「音韻ループ」は、「数字や単語などを短期間だけ保持する短期貯蔵庫」。もうひとつの「視覚・空間的スケッチパッド」は、「非言語的な情報である図形や空間的配置の短期貯蔵庫」だという。(これらのサブシステムをさらに詳しく説明している)

そして2000年には、もうひとつのサブシステムが加えられた。それが、「エピソード・バッファー」

「エピソード・バッファーには、長期記憶と相互の情報検索をおこなうとともに、情報を統合したり、統合した内容を保持すると考えられている。そして、中央実行系がおこなう注意の制御に呼応して、課題遂行を可能にしていると考えられる」

このシステムについて簡潔にまとめてほしいと思う方もいるにちがいない。この本では、まとめているので、そこを引用したい。

「ワーキングメモリのモデルには、言語情報の保持にかかわる音韻ループ、非言語情報の視覚空間的情報の保持にかかわる視覚・空間的スケッチパッド、さらに長期記憶からの情報の検索や照合にかかわるエピソード・バッファーが備わっている。さらに、この3つのサブシステムの制御をおこなう中央実行系が想定され、サブシステム間の調整をして、ワーキングメモリのはたらきをスムーズにする役割を担っているのだ」

さらに本書では、ワーキングメモリの「脳内機構」についても説明している。脳の構造から説き起こしている。

この説明の雰囲気を伝えるために、一例として、「中央実行系の脳内モデル」の説明のごく一部を抜き出してみる。

「SPL、DLPFC、ACCを中心とした脳のネットワークが中央実行系の脳内表現となり、高次認知機能を維持するものと考えられる。このような脳の基盤を支えとして、ワーキングメモリは情報の保持と処理を可能とするのであろう。……略……」

上記のようなワーキングメモリのモデルとその脳内機構を知りたい方は、本書を楽しめるのではないだろうか。

ワーキングメモリの容量を測定する

「リーディングスパンテスト(Reading span test RST)」は、「ワーキングメモリの容量を測定するテスト」だそうだ。「一度に利用できるワーキングメモリには制約があるため、限られた資源をいかに効率的に使用できるかで、個人差が生じる」という。測定内容は、「ワーキングメモリの中央実行系のはたらき」とのこと。

この「リーディングスパンテスト」を用いた実験と、そこから得られた知見を紹介するのが本書の中核だ。大学生、高齢者、小学生、幼児といった、さまざまな年齢を対象として、テストを実施している。「加齢とワーキングメモリ」「ワーキングメモリの発達」などの章題があり、さまざまな実験結果を紹介している。

ひとこと

〝ワーキングメモリを一般向けレベルで詳しく知りたい〟という人向きの本。約190ページだが、読み応えがある。

NDC分類は「141」(心理学)だが、当サイトでは「脳/医学」に入れた。

初投稿日:2018年03月15日

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