これが物理学だ!
著 者:
ウォルター・ルーウィン
出版社:
文藝春秋
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デカルトの誤り
著 者:
アントニオ・R・ダマシオ
出版社:
筑摩書房
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宇宙を創るダークマター
著 者:
キャサリン・フリース
出版社:
日本評論社
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意識と自己
著 者:
アントニオ・R・ダマシオ
出版社:
講談社
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物理学者のすごい思考法
著 者:
橋本幸士
出版社:
集英社インターナショナル
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量子革命
著 者:
マンジット・クマール
出版社:
新潮社
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記憶のしくみーー(上)脳の認知と記憶システム/(下)脳の記憶貯蔵のメカニズム

書籍情報

【ブルーバックス 上】
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著 者:
ラリー・R・スクワイア/エリック・R・カンデル
監 修:
小西史朗/桐野豊
訳 者:
伊藤悦朗/宋時栄
出版社:
講談社
出版年:
2013年11月
【下】
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著 者:
ラリー・R・スクワイア/エリック・R・カンデル
監 修:
小西史朗/桐野豊
訳 者:
伊藤悦朗/宋時栄
出版社:
講談社
出版年:
2013年12月

「認知の分子生物学」

「現代の記憶研究には二つの潮流がある」という。一つは、「神経細胞は相互にどのようにシグナルを送るかを明らかにする生物学的研究」であり、もう一つは、「脳システムと認知に関する研究」だ。

この二つの潮流における「鍵となる発見」をそれぞれつぎのように記している。一つは、「神経細胞によるシグナル伝達は固定されておらず、活動と経験によって制御されるということ」、もう一つは、「記憶は単一のものではなく、独自の論理と別々の脳回路を使用する異なった様式があるということ」

「本書では、これら歴史的には異なった二つのより糸を組み合わせ新たな分野を創り出すことを試みた」と著者らはいう。それは、「認知の分子生物学」だ。

著者の一人、エリック・カンデルが「記憶保存の細胞・分子機構に焦点をあてた章」の初稿を書き上げ、もう一人の著者ラリー・スクワイアが「認知および脳システムについての章」の草稿を作成し、二人は、それらの章を「広範な批評的やりとり」によって練り上げたそうだ。第1章と最終章は共同で執筆したとのこと。

本書は、上・下合わせて約600ページ。

記憶の研究史

本書では、記憶の研究史がとても丁寧に記されている。ここでは、そのなかのごく一部を抜き出して紹介してみたい。

「ソクラテスが初めて、人間は先験的知識を持っていること――つまり、世界についてのある種の知識は生まれながらのものである――を提案して以来、西洋哲学はこの点に関連したいくつかの疑問と苦闘してきた」

哲学者たちは、「意識的な内観、論理的分析および討論」の三つの方法を使って、記憶や他の精神過程を研究した。実験によらない方法だった。

「実験的手法を心理学に導入し、学習と記憶の実験的研究の先駆者となったドイツの心理学者」が、ヘルマン・エビングハウス。彼は、「ある記憶は短寿命で、数分間しか保持されないのに、他の記憶は長寿命で、数日から数ヶ月も持続すること」、「反復すると記憶をより長く持続できるようになる」ことを発見した。

アメリカの心理学者ウィリアム・ジェームズは、「一次記憶と呼ぶ短期過程と、二次記憶と呼ぶ長期過程を提案した」

ロシアの生理学者イワン・パヴロフとアメリカの心理学者エドワード・ソーンダイクは、チャールズ・ダーウィンの考えに鼓舞されて、「学習について研究するための動物モデルをそれぞれ考案した」(パヴロフの「古典的条件づけ」、ソーンダイクの「オペラント(道具的)条件づけ」)

イギリスの心理学者フレデリック・C・バートレットは、「記憶が驚くほどもろく、歪められやすいことを実証し、記憶が正確に検索されることはまれであることを示した」

アメリカの心理学者カール・ラシュレーは、「大脳皮質のいろいろな領域を除去して、ラットの記憶の座を調べた」

カナダの心理学者ドナルド・O・ヘッブは、「大脳皮質の広い領域に分布した細胞の集合が、情報を表現するために共同してはたらくことを提唱した」

神経外科医ウィリアム・スコヴィルとカナダの心理学者ブレンダ・ミルナーは、「患者H・Mに関する驚くべき症例を報告した」

イギリスの神経生理学者バーナード・カッツは、「神経伝達物質がパケットとして放出されることを発見した」

ラモン・イ・カハールは、「現在ではシナプス可塑性仮説と呼ばれている学説を提唱した」

この本には、他にもたくさんの研究者が登場する。このような記憶の研究史を知ることができるのが、本書の特徴の一つだ。

陳述記憶と非陳述記憶

記憶の種類は、「陳述記憶」と「非陳述記憶」に大別できる。それぞれ、つぎのように説明している。

「陳述記憶は、事実や考え、出来事に関する記憶であり、これらの情報は言葉による表現や視覚イメージとして意識的に想起・回想することができる。……略……」

一方、非陳述記憶は、「想起(回想)することはできない」

非陳述記憶は、「心の中で意識によって近づくことができない」という性質を共有しているが、「異なった種類の記憶能力からなる大きな集合体」だという。「それぞれの記憶は、我々が何か行動する場合の動作の仕方に反映される。そのような記憶は、多様な運動・知覚技能、習慣や情動学習などだけではなく、馴化(慣れ)、鋭敏化、古典的条件づけおよびオペラント条件づけといった基本的な反射性様式の学習にも関与している。このため非陳述記憶は、考え深く内省的というよりは反射的と形容されるような知識と関係しているといえる」

また、「陳述記憶と非陳述記憶の両方とも、動物の行動を明確に反映するような記憶貯蔵段階――不安定な短期段階と安定で自己保持される長期段階――がある」

本書では、陳述記憶と非陳述記憶は異なる脳内システムに依存していることを論じている。また、短期記憶、長期記憶について、細胞レベルおよび分子レベルで詳細に解説している。

最終章で、アルツハイマー病などの記憶障害について説明している。

ひとこと

一般向けの科学本だが、専門用語がたくさん出てくる。著者らは、「本書は、学部生や大学院生にも有益なはずだ」と記している。「記憶のしくみ」の研究に興味を持っていて、その入門書を探している高校生や大学生向きの本だろうか(?)

初投稿日:2018年02月11日

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