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出版社:
文藝春秋
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存在の四次元ーー意識の生物学理論

書籍情報

【単行本】
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著 者:
ジョセフ・ルドゥー
訳 者:
高橋洋
出版社:
みすず書房
出版年:
2025年3月

四つの「次元のアンサンブル」として、人間を捉える

情動研究の第一人者として知られる神経科学者ジョセフ・ルドゥー(ニューヨーク大学神経科学センター教授)が、進化を踏まえ、意識にまつわる研究史を織り込みながら、自身の提唱する意識の理論を説明している。

本書の論考の核になっているのが、人間は「四つの存在次元で構成されている」、という見解だ。この四つの存在次元について、つぎのように述べられている。

「私は、地球上の進化の歴史の現段階においては、生物的、神経生物的、認知的、意識的という四つの基本的な存在様式があると考えている。これらの「存在次元」によって、個々の生物の生存のあり方が規定されるのだ。」

この四つの存在次元を示した図があり、下から、生物的存在、神経生物的存在、認知的存在、意識的存在、という順番で階層が図示されている。

そして、これらの階層的関係については、つぎのように説明される。

「四つの存在次元は、互いに階層的な関係をなしている。私の見方に従えば、意識的次元は認知的次元に、認知的次元は神経生物的次元に、神経生物的次元は生物的次元に依存する。各次元は解剖学的に重なり合い、上位次元の生理機能の基盤をなす。それと同時に、下位次元の生存可能性は上位次元によって高められている。」

これら四つの「次元のアンサンブル」として、人間を捉えている。

本書は五部からなり、第Ⅰ部では、「人間とは何か?」という大きな問いから出発して、以後の概観を示し、残りの部で四つの次元それぞれについて詳しく論じていく。

壮大な知の旅

生物と非生物の違いは、どのように考えられてきたのか。アリストテレスの見方から説き起こされる。このような話題からはじまり、進化の過程を踏まえて、上述した四つの次元について論じられていく。

数多の科学者・心理学者・哲学者が登場する研究史が織り込まれているのが本書の特徴の一つで、その論考は壮大な知の旅といった印象だ。多彩な知識に触れることができる。

たとえば著者は、人間の認知に対する「二重システム」を再考して、以下の「三重システム」のアプローチを提示している。

「システム1 非認知的で非意識的な行動制御(神経生物的次元)」、「システム2 認知的で非意識的な行動制御(認知的次元)」、「システム3 認知的で意識的な行動制御(意識的次元)」

認知と意識は分けて考えられている。

「意識の階層的マルチステート高次理論」と「メンタリーズ理論」

著者が提起する「意識の階層的マルチステート高次理論」が、図を交えて詳述されている。このレビューでは、「図22・1」をもとに、ごく簡単に紹介する。

「図22・1」では、以下の「状態/脳領域」の相互作用が示されている。

「一次の低次状態(感覚表象)/感覚皮質」、「二次の低次状態(記憶表象)/記憶皮質」、「下位の高次状態(スキーマ)/下顆粒PFC」、「高次状態(メンタルモデル)/顆粒PFC」、これらが複雑に相互作用していることが図示されている。

本文ではもっと詳しく記されている。たとえば、「二次の低次状態(側頭葉や頭頂葉に位置する記憶領域と他のコンバージェンスゾーン)」、「下位の高次状態(前帯状皮質、眼窩PFC、腹内側PFC、前辺縁PFC、島皮質を含む下顆粒PFCの中間皮質領域)」、というような説明がなされている。また、この図に示されていない「状態/脳領域」についての説明も加えられている。

これらの用語に面食らうかもしれないが、もちろん、この解説までに、スキーマやメンタルモデルについて、顆粒PFCや下顆粒PFCについて詳述されている。

読者はたくさんの知識を積み重ねていき、この解説にたどり着く。しかし、この解説は、まだ旅の途中のようなもので、ここからさらに、いかにして人間の意識的経験が生じるかが述べられる。それが本書のラストだが、その記述にいく前に、つぎのような話題が織り込まれる。

著者は、「意識における記憶の重要性」を強調しているが、「意識的経験の種類によって、その基盤をなす記憶の種類は変わってくる」という。記憶の種類が紹介され、それらが支えているタイプの意識について論じられる。エンデル・タルヴィングの主張をもとに、「ノエティック意識(認識的意識)」、「オートノエティック意識(自己認識的意識)」、「アノエティック意識」について述べられている。

そして「動物の意識」についての議論を挟んで、意識をめぐる知の旅はその終点にたどり着く。いかにして人間の意識的経験が生じるのか。著者の「メンタリーズ理論」が説明される。

メンタリーズとは「……哲学者が従来「思考の言語」と呼んできたものの一バージョン」だそうで、この言葉をどのような意味で用いているかを述べてから、自身の理論を詳述する。

感想・ひとこと

著者は「専門家と一般読者の双方を対象に本書を執筆した」と述べているが、どちらかというと、専門家および今後意識研究の分野に入ってくる人たちを念頭において執筆している、という印象をもった。

意識の研究(神経科学や心理学)に興味を持っている中学生・高校生・大学生におすすめしたい一冊。もちろん、脳科学の一般書を好んで読んでいる私のような読者にとっても、多くの知見に触れられる有意義な読書時間となる。

なお、本書はNDC「141」(大別すれば心理学)だが、当サイトでは「脳/医学」に分類した。

初投稿日:2025年05月17日

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