すごい実験
書籍情報
- 著 者:
- 多田将
- 出版社:
- イースト・プレス
- 出版年:
- 2011年8月
- 著 者:
- 多田将
- 出版社:
- 中央公論新社
- 出版年:
- 2020年12月
高校生に素粒子物理学(とくに加速器を使用したニュートリノ実験の最前線)を伝えた講義録
書名の「すごい実験」とは、どんな実験か? それは、「日本そのものを「実験室」にした、ものすごくスケールの大きい実験」だという。名前は、「T2K実験」
つぎのような実験だそうだ。
茨城県の東海村にあるJ–PARCで作ったニュートリノをビーム状にして発射する。そのビームを、岐阜県の神岡町にある検出器スーパーカミオカンデでキャッチする。この距離は、295km。
発射するニュートリノは、「ミューニュートリノ」というもの。これが、「電子ニュートリノ」に変化するのを検出するのが、実験の目的らしい。
電子ニュートリノ、ミューニュートリノ、タウニュートリノという3種類のニュートリノは、互いに変化し合うようだ。
じつは、T2K実験は「二世代目の実験」
初代は「K2K実験」で、世界中で「これはすごい!」と話題になったという。著者はその実験データを示し、こう記す。「これは間違いなく、ニュートリノが互いに変化し合っている。他の理由では絶対にありえない。ニュートリノに質量があるのは99.998%以上の確率で間違いない、と証明されました」と。
しかし、初代の「K2K実験」では、ミューニュートリノが何か別のニュートリノに変化したことまではわかったが、何に変化したのかはわからなかったという。
それを突き止めるのが「T2K実験」の目的だ。著者は、その目的をこう語る。
「我々のT2K実験の目的は、このミューニュートリノが、何ニュートリノに変わるのか、その姿を突き止めることです。我々が東海村で作って撃ち込んでいるのはミューニュートリノのビームで、それ以外のものはほとんど混じっていません。」「なのに、もし何個か、電子ニュートリノが混じっていたら、この現象をちゃんと証明したことになるんですね。そして、ミューニュートリノと(変化で生じた)電子ニュートリノの数を数えることで、ミューニュートリノから電子ニュートリノへの変化の割合を求めることができます。これは世界でまだ誰も見たことがない現象なんです。これがうまくいったらノーベル賞が取れるかもしれません」
著者は、中央大学杉並高等学校で4回の授業を行い、「T2K実験」がどのようなものかを伝えた。授業は、生徒からのたくさんの質問に答えながら進められた。その授業を元に本書はつくられている。
第一章では、加速器を使用してニュートリノをつくりだす仕組みを述べる。
第二章では、原子から始めて、クォーク、レプトンという階層まで説明する。
第三章では、ニュートリノの性質、検出方法、「太陽ニュートリノ問題」「大気ニュートリノ問題」をやさしく解説し、「T2K実験」の目的を明らかにする。
第四章は、「相対性理論と宇宙について」。最後に、本書で述べてきたような素粒子物理学の研究が何の役に立つのか、その見解を「東急ハンズ」の喩えを用いて語っている。
ひとこと
授業の臨場感あふれる一冊。語り口もユニーク。生徒からの質問への回答を交えて授業が進むので、話に広がりが見られる。
私は単行本を読んでレビューを書いている。リンク先は文庫版に変更した。