共生生命体の30億年
書籍情報
- 著 者:
- リン・マーギュリス
- 訳 者:
- 中村桂子
- 出版社:
- 草思社
- 出版年:
- 2000年8月
共生の観点から生命進化を語る
本書は、連続細胞内共生説で知られるリン・マーギュリスが、「共生発生」の観点から生命進化を論じたもの。また、ハイスクール時代やカール・セーガンとの結婚、遺伝学を学びたいと思うようになった経緯なども語られており、自叙伝のような側面もあわせもつ。
「共生発生 symbiogenesis」は、進化用語で、こう説明されている。「長期あるいは永続的な共生が確立することによって、新しい組織や器官や生物が――それに新しい種までもが――生まれることを指している」と。
この共生発生が真核細胞の起源だというのが著者の説だ。「連続細胞内共生説」によると、自由生活をしていた4種類の細菌が、きまった順序で共生したそうだ。次のようなステップらしい。
まず、嫌気性の好熱好酸性細菌(サーモプラズマに似た細菌)と遊走性細菌(スピロヘータ)が共生する。この合体の結果、細胞の核が生じたのではないかと推察している。そして現在の細胞内の「中心小体/キネトソーム」は、この遊走性細菌に由来すると主張する。この最初のステップは「証拠が希薄」のため認められていないようで、この論拠を示すところに力が入っている。ここが本書の読みどころの一つ。
つぎに、嫌気性の好熱好酸性細菌と遊走性細菌の合体したものと酸素呼吸細菌(プロテオバクテリア)が共生する。細胞内のミトコンドリアは、この酸素呼吸細菌に由来する。この3つの細菌の合体でできた細胞から、数々の動物が生まれたという。そしてこの細胞に、シアノバクテリアが共生するのが最後のステップ。葉緑体その他の色素体は、シアノバクテリアに由来する。細胞内のミトコンドリアや色素体が、かつては自由生活をしていた細菌だったというのは定説となっている。
本書は、性についても論じられている。著者は「性は循環的な共生というきわめて特殊なケースとして理解できる」という。また、生命の上陸についても共生の観点から論じられている。
最終章では「ガイア」をとりあげる。著者が論じているのは、科学としてのガイアであり、大衆化されたガイアではない。グレグ・ヒンクルがかつて著者の教室の大学院生だったころ、からかうようにこう言ったそうだ。「宇宙から見ればガイアも共生体と言えますね」と。著者はその言葉を正しいと思う。「ガイアは、相互作用をする一連の生態系であり、地表で単一の巨大な生態系を構成している」という。
ほかに、生物の分類体系と生命の起源についても論じられている。
ひとこと
もしかすると、新たな視点で私たちの生命や環境を眺めることができるかもしれない。印象深いエピソードが織り込まれている自叙伝の部分もおもしろい。