生物はなぜ誕生したのか ——生命の起源と進化の最新科学

書籍情報

【単行本】
No image
著 者:
ピーター・ウォード/ジョゼフ・カーシュヴィンク
訳 者:
梶山あゆみ
出版社:
河出書房新社
出版年:
2016年1月
定 価:
本体2,200円+税

新しい視点で、生命の歴史を紡ぎだす

原題は『A New History of Life』(新しい生命史)。この本は、生命の歴史を、新しい視点で語ることを試みている。その新しい視点の中心となるのが、「酸素」と「二酸化炭素」だ。著者らはつぎのように述べる。

「地球にどういう種類の生物が生まれるか(またはそもそも生物が生まれ得るか)は、おおむね大気中の様々な気体の濃度とそれらの相互作用に左右されるといっていい。しかも、その生物がどういう歴史を歩むことになるかもそれで決まってくる。酸素と二酸化炭素の濃度に目を向ければ、地球上の生命がたどってきた道のりの大まかなパターンはもちろんのこと、細かい部分も浮かび上がってくるのだ。この二種類の気体がそれだけ重要な役割を担っているということは、二一世紀に入ってしだいに広く受け入れられてきている。これは、地球史を読み解くうえでのまったく新しい切り口だ」

さらに、「別の二つの気体も重要な役割を果たしてきた」という。それは「硫化水素」と「メタン」だ。

本書は、上記の四つの気体(とくに酸素)を切り口とし、「大量絶滅」を構成の軸に据えて、生命の歴史を紡ぎだした。

「大酸化事変」はいつ起きたのか

現在の私たちにとって、大気中に酸素があるのは当然のことだ。しかし初期の地球大気には、「酸素がほとんどないしまったく存在しなかった」ことが豊富なデータで裏づけられているという。では、大気に酸素があふれるようになったのはいつ頃なのか。著者らは、諸説を検討したうえで、大酸化事変がいつ起きたかを述べていく。

「大酸化事変が遅くともいつまでに起きていたかについては、確実な根拠が南アフリカの広大なマンガン鉱床から得られている」という。これは「カラハリ・マンガン鉱床」と呼ばれており、その年代は22億2000万年前だそうだ。「この時点では間違いなくシアノバクテリアの世界があり、オゾン層もつくられ、海中にも空気中にも酸素が存在したと考えていい」という。

著者らは、大酸化事変を、全球が氷河に覆われる「スノーボールアース」(全球凍結)と絡めながら論じている。(これが、一度目のスノーボールアース)

この大酸化事変とスノーボールアースによって、大量絶滅が起こったという。(本書がいう10回の大規模な大量絶滅の1回目)

スノーボールアースは、大別すると、二度あったと考えられている。

二度目のスノーボールアースと「動物の進化」の関係は?

著者らは、こう述べる。「何より知りたいのは、この時代に全球が凍結したことが動物の唐突な出現を促すおもな要因だったのかどうかだ」と。

ここでいう(二度目の)全球が凍結した時代とは、「クライオジェニアン紀」だ。

地質時代区分を見てみる。「クライオジェニアン紀」は、8億5000万年前〜6億3500万年前。そのあとに続くのが、「エディアカラ紀」(6億3500万年前〜5億4200万年前)。そのつぎが、「カンブリア紀」だ。

二度目のスノーボールアースが起きたのは、7億1700万年前〜6億3500万年前で、このあいだに「二回にわたって全球が凍結したらしいことがわかってきた」という。このスノーボールアースにより、大量絶滅が起きたようだ。(「クライオジェニアン紀の絶滅」が、本書がいう10回の大規模な大量絶滅の2回目)

そして、二度目のスノーボールアースが終わった6億3500万年前からが、「エディアカラ紀」

「オーストラリアのアデレードは秘密の地である」。こんな書き出しから、「古生物学上の大発見」があったことを述べ、つぎのように記す。「アデレードから内陸に入った乾燥した丘陵地帯で、最古とされる比較的大型の動物化石が発掘されたのだ。エディアカラ生物群である」と。

「今日、エディアカラ生物群は六つの大陸の約三〇箇所で確認されており、七〇種に分類されている」という。

「エディアカラ紀と呼ばれるのは、当時としては最も複雑に進化したエディアカラ生物群が生息した時代だから」だそうだ。

さて、冒頭で紹介した著者らの言葉をもう一度くりかえしたい。「何より知りたいのは、この時代に全球が凍結したことが動物の唐突な出現を促すおもな要因だったのかどうかだ」

「そうだった」というのが著者らの主張だ。

たとえば、こんな知見を紹介する。「現生生物の多くは、環境ストレスにさらされると自らのゲノムを大幅に再構成して対応することが知られている」。そして、スノーボールアースが「ストレスを与える現象だった」と述べ、こう続ける。「全球凍結が終わった直後には、凍結前よりも複雑な生物の多種多様な化石が現われる。この事実は、スノーボールアースが「引き金」となって生命の複雑さと多様性が著しく増したという仮説を裏づけている」と。

また、著者らは、「なぜこれほど多くの種類の動物が存在するのかという問いに答えが出せるかもしれない」という仮説を披露する。

エディアカラ紀後期にも絶滅があったという。(本書がいう10回の大規模な大量絶滅の3回目)

カンブリア爆発と「真の極移動」

生命の歴史を語るうえで重要なイベントのひとつが、カンブリア爆発だ。「古生物学者にとってカンブリア爆発は、化石に残るほど大型な動物の主要な門のほとんどが最初に誕生したことを意味する」という。5億3000万年前〜5億2000万年前という「比較的短い期間」に、「動物門の圧倒的多数が初めて登場」したそうだ。

このカンブリア爆発はどのようにして起こったのか。著者のひとりカーシュヴィンクらは、「カンブリア爆発を引き起こしたメタンの導火線」というタイトルの論文を科学雑誌に発表したそうだ。そのメカニズムはつぎのようなものだと述べている。

「……大陸が高緯度に位置していると、海底や永久凍土の中に凍ったメタンを溜め込みやすい。いわゆるメタンハイドレートだ。その地域が赤道に向かって移動すれば、気温が徐々に上昇するにつれてときおり温室効果ガスを大気中に放出することになり、それが環境の温暖化につながる。温暖なほうが生物の代謝が促進されるので、進化や種の多様化は速く進む傾向にある」

このメカニズムの鍵を握っているのは、「真の極移動」だ。本書では、真の極移動とは何かというところから丁寧に説明している。

「生命史上のイベントの原因を真の極移動に求めるというのは、まったく新しい研究分野であり、二〇世紀においては前代未聞のことだった。真の極移動はカンブリア爆発にのみ当てはまるのではなく、大量絶滅が起きるメカニズムの説明にもなる」と述べている。

カンブリア紀後期にも大量絶滅があったという。(本書がいう10回の大規模な大量絶滅の4回目)

「ビッグファイブ」と呼ばれる五度の大量絶滅

「ビッグファイブ」とは何を指すのか。つぎのように述べている。「ビッグファイブとは、全体の五〇パーセントを超す種が失われた大量絶滅のことで、具体的にはオルドビス紀、デボン紀、ペルム紀、三畳紀、白亜紀の末に起きたイベントを指す」と。

このなかで、とくに著者らが力を込めて論じているのが、ペルム紀末の大量絶滅の原因について。「ペルム紀の大量絶滅をめぐっては、その原因について今なお激しい論争が繰り広げられている」という。隕石衝突か、温室効果か。それぞれの説を紹介している。著者らが支持しているのは、「温室効果絶滅」だ。

「温室効果絶滅説の始まり」として、リー・カンプの仮説を紹介している。つぎのようなシナリオだ。

「通常の海洋環境であれば、酸素の多い表層水と硫化物の多い深層水は分離している(現代の黒海のように)。しかし、海洋が低酸素状態だった時期(海底のみならずおそらくは海面近くでさえ酸素が欠乏していたとき)に、深海の硫化水素濃度がある限界を超えて高くなったとすると、その有毒な深層水が急に海面に上昇してきたとしてもおかしくない。その結果、毒性の強い硫化水素ガスが大量に大気中に上っていくという恐ろしい状況が生まれた」

また、三畳紀末の大量絶滅も「温室効果絶滅」と主張する。

もちろん論じているのは、大量絶滅だけではない。酸素濃度の変動と生物の進化との関係を見ていく。たとえば、下記のような話題がある。

「生物の陸上進出」の話題。「最初の動物の上陸を可能にしたのは大気中の酸素濃度が上昇したからだ」という見解を述べている。

石炭紀とペルム紀前半は高酸素の時代で、「地球史上で最も酸素濃度の高かった時期」だそうだ。そして、この時代は「巨大生物の時代だ」という。巨大トンボの話など酸素濃度と動物サイズとの関係、酸素濃度および気温と動物の生殖方法や体温調節機能との関係、などを考察している。「酸素と森林火災」など、植物の話題もある。

ペルム紀末の大量絶滅のあとには、「三畳紀爆発」がある。三畳紀は低酸素の時代だったそうだ。こんな記述がある。「この酸欠状態の中から新種の動物が出現した。そのほとんどが、長引く酸素危機への対処能力の高い呼吸器系をもつ。陸上では、惨憺たる状況の中から二つの新しいグループが立ち上がった。哺乳類と恐竜だ」

「生命の歴史を語る以上、恐竜について長々と述べないわけにはいかない」という。「呼吸」という切り口で恐竜を論じている。

地球誕生から、現在、そして未来まで。現在、一〇度目の大量絶滅が進行中なのか?

本書が描く生命史は、45億6700万年前の地球誕生の記述からはじまる。そこから、生命とは何か、その定義へと話を展開し、生命がいつどこで誕生したのか、諸説を紹介していく。

著者らは、地球の生命が最初に誕生した場所は火星だったのではないかと考えている。RNAがつくられるような自然環境を考えていくと、生命の起源が火星にあるという説が生まれてくるようだ。

そして、白亜紀末の絶滅について述べたあとは、哺乳類の進化、鳥類の進化などを見ていき、「人類と一〇度目の絶滅」という章へ。最後は、「ヒトの進化の未来」について語っている。

ひとこと

この本は、文章は読みやすいが、内容はハード。

初投稿日:2016年04月26日

新刊・近刊リスト

新刊・近刊リストは出版社サイトを別ウインドウで開きます

著者案内

著者案内「デイヴィッド・J・リンデン」画像 著者案内「デイヴィッド・イーグルマン」画像 著者案内「井ノ口馨」画像 著者案内「櫻井武」画像 著者案内「多田将」画像 著者案内「リチャード・ドーキンス」画像 著者案内「福岡伸一」画像 「傳田光洋」画像 「マイケル・S.ガザニガ」画像 アントニオ・R・ダマシオ画像 「池谷裕二」画像 joseph ledoux著者案内イメージ 著者案内V.S.ラマチャンドラン画像 著者案内「村山斉」画像 著者案内「大栗博司」画像

テーマ案内

おすすめ本

以前に新刊・近刊としてピックアップしたもの

出版社サイトを別ウインドウで開きます