脳のなかの万華鏡 ——「共感覚」のめくるめく世界

書籍情報

【単行本】
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著 者:
リチャード・E・サイトウィック/デイヴィッド・M・イーグルマン
訳 者:
山下篤子
出版社:
河出書房新社
出版年:
2010年8月
定 価:
本体2,800円+税

多種多様な共感覚の事例を網羅的に紹介し、共感覚の神経基盤を考察する

黒で書かれた文字や数字を見て「色を感じる」、音楽を聴くと「動きと色をもった形を見る」、言葉に「味を感じる」、など、このような不可思議な現象は「共感覚」と呼ばれている。

本書では、共感覚者自身の言葉を交えながら、また共感覚をもつ芸術家について述べながら、多種多様な共感覚の事例を網羅的に紹介している。そして、共感覚がなぜ生じるのか、共感覚の神経基盤を考察している。

共感覚の神経基盤とはどのようなものだろうか。共感覚者の脳とそうでない人の脳とでは何が違うのだろうか?

共感覚は「複数の脳領域をつなぐニューラル・ネットワーク(神経回路網)という観点から考える必要がある」という。

現代の神経科学によると、さまざまな情報は、さまざまな脳部位で処理されている。視覚に関与している脳領域、聴覚に関与している脳領域、というように、脳は分業しているという。さらに細かく見れば、ある神経細胞集団は視覚のうちの「運動知覚」に関与し、また別の神経細胞集団は視覚のうちの「色の知覚」に関与している。このように脳の領域は、高度に特殊化されている。

しかし私たちは、そのような脳のなかの分業を知覚として認識することはない。たとえば、赤いリンゴが飛んでくるとする。すると、脳のさまざまな領域はリンゴを、「何か赤いもの、丸いもの、食べられるもの、ある速度で近づいてくるもの」というように、とらえるという。だが、私たちが見るのは、多数の情報が統合されたもの、すなわち飛んでくる赤いリンゴだ。

では、脳はどのようにして多数の情報を統合しているのか。まだ解決されていない難題だが、つぎのように説明している。一部を抜粋して紹介したい。

「特化した脳領域どうしは、たがいに密に結合している。それらの結合は、ときには直接につながっているが、たいていはほかの領域を通って、大規模な再帰的ネットワークを形成している。統一された知覚は、この広範囲なネットワークのなかで生じる」

本書では、「聴覚と視覚が脳内で密に結びついている」という例をいくつか挙げている。その一つが、「マガーク効果」だ。つぎのように説明している。

「マガーク効果という錯覚では、/ba/の音を、/ga/と言っている唇の動きと一緒に呈示すると、/ba/ が /da/と知覚される。このマガーク効果から、視覚と聴覚の情報は、音素や語のカテゴリーについての判断が下される前の早い段階で一緒になるということがわかる」

著者らは、「正常な脳のなかには、いくつもの感覚が関与する豊かな相互作用が存在する」と考えているようだ。すこし長くなるが、つぎの記述を紹介したい。

「知覚は従来、モジュール形式になっている[機能単位でまとめられている]とみなされ、感覚のルートはそれぞれ別々になっていて、感覚どうしの相互作用は、もしあったとしても非常に少ないと考えられてきた。残念なことにこのモジュール形式という概念は、正常な脳のなかには、いくつもの感覚が関与する豊かな相互作用が存在するという事実を覆いかくしてしまう。私たちは日常生活のなかで、感覚の事象をそれぞれ別個に体験しているのではない。ある感覚器官が受ける入力はどれもみな、同じ事象や物体に関するほかの感覚と関連しているからだ。知覚している本人は気づいていないが、それぞれの感覚モダリティは、ほかの感覚から大きな影響を受ける」

著者らは、正常な脳のなかにも、感覚領域のあいだで「クロストーク(混信)」があると考えているようだ。共感覚者の脳とそうでない人の脳の違いは、「クロストークがあるかどうかではなく、どのくらいあるかという程度の違いなのである」と述べている。共感覚は、脳領域どうしの「クロストークが多い」ことの結果だというのが著者らの見解だ。

では、なぜクロストークが多いのか。本書ではその点も考察している。

ひとこと

共感覚の観点から、メタファーや創造性について論じているところもおもしろい。

初投稿日:2018年06月14日

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