これが物理学だ!
著 者:
ウォルター・ルーウィン
出版社:
文藝春秋
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デカルトの誤り
著 者:
アントニオ・R・ダマシオ
出版社:
筑摩書房
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宇宙を創るダークマター
著 者:
キャサリン・フリース
出版社:
日本評論社
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意識と自己
著 者:
アントニオ・R・ダマシオ
出版社:
講談社
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物理学者のすごい思考法
著 者:
橋本幸士
出版社:
集英社インターナショナル
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量子革命
著 者:
マンジット・クマール
出版社:
新潮社
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探究する精神ーー職業としての基礎科学

書籍情報

【幻冬舎新書】
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著 者:
大栗博司
出版社:
幻冬舎
出版年:
2021年3月

第一級の物理学者が半生を振り返りながら、どのように知を育んできたか、研究者にとって大切なことは何かを伝え、基礎科学の社会的意義を考察する

著者の大栗博司はカリフォルニア工科大学フレッド・カブリ冠教授、ウォルター・バーク理論物理学研究所所長、東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構機構長。

専門分野の知識だけでなく哲学など幅広い知識をもつ物理学者が、小学生の頃からどんな本を読んでその知を育んできたか、どんな考えのもと大学や研究者としてのキャリアを選択してきたかがよくわかる一冊。研究者としての高い能力と大学・研究所運営の手腕を併せもつ著者の有能さに圧倒されるが、どのエピソードもユニークでおもしろい。

最終章では、大学の発展の歴史を振り返り、基礎科学の研究意義が考察される。著者は、「価値の高い発見をするためには、研究者の探究心が卓越したものでなければならない」という。ここでは基礎研究への支援がどのように行われるべきかも論じている。

著者がキャリアを築いていく過程のエピソードがおもしろい

ユニークなエピソードが満載なのだが、その中からひとつ紹介したい。

「当時、東大理学部の素粒子論研究室には、二年間務めた助手は修行のために一年間海外出張ができる」というしきたりがあった。そこで著者は、プリンストンの高等研究所の研究員とハーバード大学のジュニア・フェローに応募。このジュニア・フェローは「ハーバード大学全体で毎年数名しか選ばれない名誉あるフェローシップ」だそうだ。

しばらくして午前二時に電話で起こされる。ハーバード大学から東京のアパートにかかってきた電話だった。「あなたはジュニア・フェローの最終候補に選ばれたので、面接のためにハーバードに来てもらいたい。……」予約する飛行機に乗るように言われるが、著者は翌日からインド出張で、急に言われてもその飛行機には乗れない。

「インドでの講義をドタキャンすべきか、一瞬だけ迷い」、しかしそれはできないと判断し、丁重に断ったという。電話をかけてきた選考委員長の教授も、その場で断られたことに驚いたようだ。

プリンストンの高等研究所のほうは、「そのようなオファーができるだろう」とのことだったが、「一二月に正式な連絡をする」という、まだ確定していない状況。このような中で、その場で断ってしまう著者の決断の速さに驚くと同時に、著者の誠実さも感じられる。

この話は、ここで終わらない。研究者仲間の間では語り草になっているエピソードへと続く。

「目的合理的行為」と「価値合理的行為」を説明し、「価値合理的行為から生まれた研究成果が、なぜ長い目で見て役に立つのか」を論じる

「一見役に立ちそうもない好奇心に駆られた研究が、長い目で見ると社会に大きな利益をもたらす例は数多くあります。それはなぜでしょうか。」と記し、「マクスウェルの電磁気理論の通信への応用」の例を交えながら説明していく。マクスウェルの「その発見は価値合理的行為だった」。

感想・ひとこと

19世紀の科学者の探究が、いま私たちの暮らしに役立っている。そんなふうに思いを巡らせれば、基礎科学の探究は未来への贈りものと言えるだろう。しかしその贈りものは、社会の利益になることもあれば、害になることもある。

著者は、「基礎科学の発見は、それ自身では倫理的に善でも悪でもありません。そもそも発見された段階では、どのような実用性があるのかもわからないことが多い。」と述べている。本書には、原爆研究に携わった科学者たちの葛藤も綴られている。過去だけでなく、今も科学者や技術者の倫理が問われている。

つぎのように記されている。「ハイゼンベルク、朝永、ダイソン、ファインマンらの葛藤は七五年以上も前のことでした。しかし知的好奇心と倫理的な善との矛盾は今日的な問題でもあります。科学者や技術者を志す人は、彼らの回想を読んで自分だったらどうするだろうと考えておくのもよいことだと思います。」

本書には、著者がかつて読んだ彼らの本も紹介されている。研究者としての様々な考えも述べられている。大学までの勉強の目標や大学院でつけるべき力についても語られている。さまざまな角度から、読者の知的好奇心が刺激される。私のような一般の大人も楽しめる本だが、とくに科学者を志す小学生・中学生・高校生・大学生に有意義な読書時間をもたらす一冊ではないだろうか。

(なお、書籍情報下のキーワードは、著者の大栗博司が素粒子論の専門家のため「素粒子」としたが、上述のような内容であり素粒子の解説本ではない。)

初投稿日:2023年04月04日

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