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出版社:
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物理学を変えた二人の男ーーファラデー,マクスウェル,場の発見

書籍情報

【単行本】
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著 者:
ナンシー・フォーブス/ベイジル・メイホン
訳 者:
米沢富美子/米沢恵美
出版社:
岩波書店
出版年:
2016年9月

「電磁場」を主題に、ファラデーとマクスウェルの研究と人物像を丹念に描き出した一冊

「マクスウェルとファラデーの連帯は、物理学全体と人類の知に、壮大な貢献をした。彼らの貢献は、ニュートンやアインシュタインの貢献に匹敵する」と著者はいう。

そして、こう記す。「アインシュタインは「ジェームズ・クラーク・マクスウェルと共に、科学の新しい時代が始まった」と述べた。マクスウェル自身は多分、「電気の流れる導線の周りに円形の力が存在する事実に、マイケル・ファラデーが最初に気付いた一八二一年に、科学の新しい時代が始まった」と言うだろう」

「マクスウェルとファラデーの連帯」によって生み出された「電磁場」という概念を、著者はつぎのように賞賛した。

「我々が今日用いる、発電機、動力装置、変圧器の全ては、電気と磁気の力の相互作用を使っている。要するに、電信だけでなく、我々の生活に関わる殆ど全てが、電磁場を利用した技術で執り行なわれる。電磁場! 自然界に昔から存在していたにもかかわらず、ファラデーによってまず予測され、次にマクスウェルによって解明されるまでは、夢想だにされなかった、この宝物!」

こう続ける。「しかし、ファラデーとマクスウェルの電磁場についての概念は、技術の進歩に影響を与えたに留まらない。それより遥かに重要だったのは、科学者の自然観を覆したことだ」

ファラデーは、「貧しい鍛冶屋の息子」で、小学校を終えると「本屋の使い走りとして働き始めた」。製本工の丁稚となり、「来る日も来る日も、何時間も何時間も、ひたすら製本に励む」。本が、彼の世界を拡げた。「絵本、冒険物語、小説、哲学に関する本、そして、とりわけ現実の物質世界に関する本と、その仕組みの解明を扱う本は、一冊残らず読む」

「ファラデーにとっては、物理の世界で起きていることを真に理解するための唯一の方法が、「自分で確認する」ことだった」

ハンフリー・デイヴィとの出会いによって、「科学の世界でのファラデーの人生が始まった」。「非公式に「雑用と磨き担当」に指定されたその職は、研究所で最も格下だった。瓶を洗うだけでなく、床を掃き、暖炉を掃除した。しかし、デイヴィがこの新人の才能に気付くのに長くはかからなかった」

著者は、デイヴィとファラデーのエピソードをいくつも描いていく。また、「電気と磁気の長い歴史」を紹介する。

デイヴィは、1829年に他界したそうだ。「ファラデーにとってデイヴィは、師であり、友人であり、刺激を与えてくれた人」だった。そして著者は、こう記す。「弟子は師を超える発見の旅に乗り出そうとしていた。一八三一年八月、ファラデーは研究室の日誌に、彼の最高作品となる新プロジェクトの最初の一行を記す。数式が皆無で、言葉のみで綴られた、記念碑的な作品『電気の実験的研究』だ。その執筆に、ファラデーは手を付けたのである」と。

本書は、ファラデーの行なった実験の描写を交えながら、彼の探求を丹念に描き出している。

「「ファラデーが理解したこと」を、他の人が理解できる「数学的言語」に翻訳するためにジェームズ・クラーク・マクスウェルが必要だった」という。

ファラデーの数学の知識については、つぎのような記述がある。

「ファラデーが数学を習得していたらどのようなことを達成し得たか、それは分からない。しかし逆説的に言うなら、数学に関する彼の無学が反って有利に働いたのかもしれない。その結果、彼は理論を導き出す際に、数学的モデルから演繹するのではなく、実験で観察された事実だけから結論を導いた。時を経るに従い、彼のこのアプローチは電磁現象の深みを覗くための直観に結びついていった。他の人が考えもしない疑問を抱き、誰も思いつかない実験を考案し、余人が見逃した可能性を追求する。彼のアイディアは大胆だったが、実験できちんと実証できるまでは決して結論を出さなかった」

一方、マクスウェルは、数学に秀でていた。ケンブリッジ大学卒の天才。著者は、マクスウェルの生い立ちから描き始めて、彼の天才と人物像を浮かび上がらせ、そして、その研究を丹念に紹介していく。

たとえば、こんな記述がある。「マクスウェルと同時代人との違いは何なのか? 二つの際立った特徴を挙げることができる」と述べ、その「第二」をこう記している。「マクスウェルと同時代人との違いの第二は、彼が、「真空の変位電流」とその結果として生じる「電磁波」を予測したことだ。実験結果から示唆されたわけでもないし、理論的に導かれたわけでもない。何故彼が「電磁波」を予測できたかについては、どんなに時間をかけて説明を探しても、答は次の一語に尽きる。「マクスウェルが天才だったから。」」

「マクスウェルの理論の構築は、一〇年にわたる、計り知れない創造的な努力の賜物だった」という。そして、著者はつぎのように続けている。

「最初から最後まで、マイケル・ファラデーの研究に触発され続けた。ファラデーが、『電気の実験的研究』に研究結果や考えを緻密に記録してくれたお蔭で、ファラデーが見た世界を、マクスウェルも見ることができた。ファラデーの考えを、ニュートン数学で表わすことで、数学の力を用いて物理的現実を式で記述した。しかし、これができたのは、数学の力のみではない。マクスウェルの「殆ど奇跡に近い直観」で変位電流を考察し、この理論を高い完成度に導いた」

マイケル・ファラデー。1791年生誕、1867年死去。

ジェームズ・クラーク・マクスウェル。1831年生誕、1879年死去。

「マクスウェルが拓いた道に、マクスウェルとは異種ではあるが補完的な才能を持つ少数の人たちが続いた。彼らはやがて、「マクスウェル信奉者たち」と呼ばれるようになる」。本書では、「マクスウェル信奉者たち」も紹介している。

最後に、「序」のなかの記述を紹介して終わりたい。

「科学者たちはニュートンの時代から、「宇宙は、力学の法則に支配されている」と連綿と信じてきた。ここで[力学の法則]というのは、<物体>が「エネルギーを持ち」「力を及ぼす」という法則のことである。彼らにとって物体を取り巻く空間は、単なる不活性な背景に過ぎない。ところが、ファラデーとマクスウェルが提唱した考えは、<空間自体>が「エネルギーを蓄え」「力を媒介する」という、奇想天外なもの。この考えは、実際の空間に充満している「あるもの」を記述する上で必須の条件なのだが、ニュートン力学では説明が付かない。その「あるもの」こそ、本書の主題「電磁場」である」

ひとこと

電磁気学の知識を持つ方向きの本という印象を持った。

初投稿日:2017年01月06日

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