新しい自然免疫学ーー免疫システムの真の主役
書籍情報
- 著 者:
- 坂野上淳
- 監 修:
- 審良静男研究室
- 出版社:
- 技術評論社
- 出版年:
- 2010年12月
免疫について知るための入門書的な一冊
免疫システムは、「自然免疫」系と「獲得免疫」系に大別できる。本書の中心は書名のとおり自然免疫だが、獲得免疫も含めて免疫システムについて幅広く解説している。免疫を知るための一般向けの入門書的な一冊。
大まかな構成はつぎのようになっている。まずジェンナー、パスツール、コッホ、ベーリング、北里柴三郎の業績を取り上げ、その後でB細胞と抗体、T細胞について説明していく。免疫細胞の分類も簡潔にまとめている。そして敗血症の話題から始めて、自然免疫について論じていく。この中核となるのが、トル様受容体(TLR)の解説。最後に、免疫の進化を取り上げている。
あとがきにかえて、著者が聞き手となる、審良静男へのインタビューがある。
本書の著者紹介をみると(出版時点)、坂野上淳は大阪大学免疫学フロンティア研究センター(IFReC)准教授。監修の研究室の代表である審良静男は同センターの教授・拠点長。
トル様受容体(TLR)を一般向けに詳しく解説
審良静男のグループは、バラエティに富んだノックアウトマウスを持っていた強みを活かし、TLRの機能の多くを明らかにした。どのようにしてこれらの機能を明らかにしていったのか、その手法の説明も織り込みながら、TLRの機能を一般レベルで詳しく解説している。
免疫の進化を取り上げる
まず、「獲得免疫を持たない」動物たちの免疫システムについて論じている。軟体動物や昆虫の免疫について、「原索動物の一種で、脊椎動物の遠い親戚である」ホヤの免疫について述べる。ホヤは自己と非自己を識別できるという。
そして魚類の免疫を説明する。魚類は系統分類学上、「無顎類(ヤツメウナギなどもっとも原始的な顎がない魚)」、「有顎軟骨魚類(サメやエイなどやや原始的な魚)」、「有顎硬骨魚類(マグロやコイなど一般的な魚)」に大別できる。
詳細に説明しているのが、無顎魚類とも円口類とも呼ばれるヤツメウナギの免疫について。つぎのように記している。「原始的魚類である円口類は、自然免疫系が発達しており、補体系や食細胞の働きが免疫の中心です。同時に、〝獲得免疫らしきもの〟も働いているのです」。このヤツメウナギの〝獲得免疫らしきもの〟について、マックス・クーパーらの論文をもとに解説している。
「有顎の軟骨魚類と硬骨魚類の免疫システムは、われわれ哺乳動物とよく似ている」そうだ。
感想・ひとこと
トル様受容体(TLR)についてよくわかる一冊。TLRについては、『新しい免疫入門』(著者:審良静男/黒崎知博)でも詳しく説明されている。
免疫の進化を取り上げているところも本書の特徴の一つ。「生物の進化を考えるうえで、免疫系を比較対照する」こうした分野を比較免疫学というそうだ。私はこの箇所に興味を覚えた。