フェルマーの最終定理
書籍情報
- 著 者:
- サイモン・シン
- 訳 者:
- 青木薫
- 出版社:
- 新潮社
- 出版年:
- 2006年6月
「フェルマーの最終定理」をめぐる三世紀に及ぶ天才数学者たちの物語
「私はこの命題の真に驚くべき証明をもっているが、余白が狭すぎるのでここに記すことはできない」
17世紀にピエール・ド・フェルマーは、彼の「バイブル」であった『算術』の余白に「苛立たしい思わせぶり」な言葉を残した。この「問題」に対する数学者たちの挑戦は三世紀に及ぶ。そのなかには名高いレオンハルト・オイラーもいたが、その「完全証明」は得られなかった。
本書は、アンドリュー・ワイルズによる「フェルマーの最終定理の完全証明」までの軌跡を、数学史上名高い数学者たちのいくつもの物語を織り込みながら描き出した話題作。ワイルズの証明の鍵となった「谷山=志村予想」など、日本人数学者たちの活躍、また、そこに含まれる悲劇をも描き出している。
単行本が刊行されたのは2000年1月。
フェルマーの人物像、「謎の誕生」
E・T・ベルが「アマチュアの大家」と呼んだフェルマーには、「人を困らせて喜ぶようなところがあった」そうだ。「自分の証明をつけずに最新の定理を送り付け、できるものなら証明してみろと相手を挑発した」エピソードなどが紹介されている。
フェルマーを導いたのは、「古代ギリシャから伝わる数学書『算術』」だった。この『算術』はバシェによるラテン語訳で、「各ページに十分な余白があった。そしてフェルマーは、ときにこの余白に論法やコメントを書き込んだ」という。
フェルマーの死後、彼の長男クレマン・サミュエルは、『P・ド・フェルマーによる所見を含むディオファントスの算術』を刊行した。これは「バシェによるラテン語訳の原文に沿って、フェルマーによる四十八の所見を並べた」ものだった。
「何世紀という時の流れのなかで、フェルマーの所見は、一つ、また一つと証明されていった。しかしフェルマーの最終定理だけはなんとしても屈服を拒んだ。そもそも〝最終〟定理と呼ばれることになったのは、これが証明されていない最後の所見だったから」だという。
レオンハルト・オイラーの物語
数学史上名高いレオンハルト・オイラーは、「フェルマーの最終定理の証明に向けて、最初の大きな一歩を踏み出した人物」だった。本書は、オイラーのさまざまなエピソードを交えながら、彼のフェルマーの最終定理への取り組みを描写する。ここでは「虚数」の解説などもある。エピソードのなかには、女帝エカテリーナの頼みのため、代数学を用いて無神論者と「神学論争」を行うといった風変わりなものもある。
ソフィー・ジェルマンの物語を綴り、また、数学史に名を残した女性数学者たちを紹介する
「フェルマーの最終定理の研究に革命を起こし、それ以前のどんな男性よりも大きな貢献をなした」ソフィー・ジェルマンの物語が綴られている。彼女の生きた時代は、女性への差別と偏見があった。
ジュルマンは、「偉大なガウス」に手紙を出したとき、偽名を用いて女性であることを隠す。しかし、ナポレオンがプロイセンを侵略したとき、ジェルマンはフランス軍指揮官の友人に「ガウスの身の安全を保障してくれるよう」に頼み、そのことからガウスに正体を明かすことになる。このようなさまざまなエピソードとともに、ジェルマンの「フェルマーの最終定理」の研究における貢献を描いている。
ここでは、女性差別の時代に生きながら数学史上に名を残した女性数学者たちも紹介されている。
フェルマーの最終定理と結びついた「谷山=志村予想」にまつわる物語
谷山豊と志村五郎の出会い、二人の人柄、谷山の悲しいエピソードなどを描写しながら、「すべての楕円方程式がどれかのモジュラー形式に関連するという谷山=志村予想」の概要を簡潔に解説していく。この「谷山=志村予想」は、ゲルハルト・フライとケン・リベットのそれぞれの仕事によって、フェルマーの最終定理と結びつく。
(本書では「楕円曲線」を「楕円方程式」と呼んでいる)
天才エヴァリスト・ガロアの悲劇
ワイルズは、その証明で「ガロア群」を利用している。この解説では、天才エヴァリスト・ガロアの悲劇が織り込まれる。
「ここで終わりにしたいと思います」
ワイルズがニュートン研究所の講堂でその言葉を発したとき、たくさんの祝福が贈られた。いくつものメディアにとりあげられ、ワイルズは有名になった。しかしその後、ワイルズのもとに大きな苦しみが押し寄せる。はじめは小さな問題に思えたものが、証明の「根本的な欠陥」だとわかる。さまざまな憶測が飛び交うなか、証明の修正を試みるワイルズの孤独と苦悩。そして諦めかけたそのときに、ワイルズのもとに「信じられないような閃き」が舞い降りる。
ひとこと
ここでは紹介しきれないほど、たくさんの数学者たちが登場し、その物語が臨場感あふれる筆致で描かれている。ポピュラーサイエンスの〝信頼ブランド〟サイモン・シンの名を轟かせた話題作。