これが物理学だ!
著 者:
ウォルター・ルーウィン
出版社:
文藝春秋
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デカルトの誤り
著 者:
アントニオ・R・ダマシオ
出版社:
筑摩書房
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宇宙を創るダークマター
著 者:
キャサリン・フリース
出版社:
日本評論社
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意識と自己
著 者:
アントニオ・R・ダマシオ
出版社:
講談社
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物理学者のすごい思考法
著 者:
橋本幸士
出版社:
集英社インターナショナル
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量子革命
著 者:
マンジット・クマール
出版社:
新潮社
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ナチュラリストーー生命を愛でる人

書籍情報

【単行本】
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著 者:
福岡伸一
出版社:
新潮社
出版年:
2018年11月
【新潮文庫】
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著 者:
福岡伸一
出版社:
新潮社
出版年:
2021年10月

ドリトル先生の物語(児童文学)の世界観を紹介し、「ドリトル先生のイギリス」を訪ねる「ナチュラリストとしての旅路」を語り、その物語を題材に福岡生命論を展開する

「本書は、『考える人』(2010年秋号「福岡伸一と歩くドリトル先生のイギリス」特集)での原稿に、国内での新たな取材を踏まえて大幅に加筆したもの」とのこと。

「ドリトル先生」というのは、イギリス人(後にアメリカに永住)のヒュー・ロフティングという作家が創作した物語シリーズの主人公(児童文学)。ドリトル先生は「動物語を話す、ゆかいで優しい太っちょの英国紳士」で、ナチュラリスト(naturalist)を名乗っている。

ナチュラリストは、一般に「博物学者」と訳されるが、福岡伸一はもう少し広く考えたいという。「標本や剝製を蒐集・分類して博物館に陳列するような博物学者ではなく、ドリトル先生は、生きていることそのものを探究する、ほんとうの意味の生物学者なのです」と記している。

ドリトル先生のモデルは大富豪ウォルター・ロスチャイルドではないか、という説があるそうだ。本書では、ウォルターの物語も綴られている。

ウォルターは、「出入りの大工が小動物の剝製を作るのをみて、心を奪われ、7歳にして博物館建設を夢見る」。後に、「両親から成人のお祝いとして私的に博物館を建ててもらい、動物学への傾倒を深めていく」

ドリトル先生を生み出したヒュー・ロフティングは、ウォルター・ロスチャイルドと同時代の人だ。そして、ウォルターの博物館が公開されたトリングという町から、ロフティングの生まれた町メイドゥンヘッドまでは、わずか40キロほど。おそらくロフティングは、世間で大きな話題を呼んだ「トリングの噂」を耳にしたことがあっただろう、と福岡伸一は推測する。

だが福岡伸一は、「端的にいえば、ウォルター・ロスチャイルドのアンチテーゼとしてドリトル先生は生みだされた」と考えている。「ウォルターのあくなき情熱と、奇矯さと、博識を、ウォルターとは反対側の方向へ注ぎ込むことのできる人物として、ドリトル先生は生みだされた」と。

生物学者は、新種を見つけだすことを『新種を「書く」』と言うそうだ。「新種を見つけることは、新種を書くこと。見つけ、名づけ、見つめること。それが、まさに世界を記述することなのである」

「見つける。名づける。見つめる。」ウォルターのような博物学者は、このようにして世界を記述する。

ドリトル先生はそうではないという。こう記している。「何かを見つけ、名づけ、そしてとどめて見つめるのではなく、そのままそれが語る言葉に耳を澄ませること。ドリトル先生は、そのようなやり方によって世界を記述することを目指していたのだ。」

少年時代の福岡伸一は、「ドリトル先生に憧れ、ドリトル先生のようになりたいと願った」。だが時代の流れに流され、分子生物学者・福岡伸一が歩んでいたのは、ウォルター・ロスチャイルドの道だったという。

本書では、ドリトル先生の物語の話題からはじめて、「ドリトル先生のイギリス」への旅路を私小説風に語り、ナチュラリストの条件などを考察し、著者の「メンター」について語り、国立科学博物館にまつわる話題などを記し、そうしてドリトル先生の物語に再び戻る。福岡伸一は、ドリトル先生シリーズの物語に生じた変化について考察し、そこから福岡生命論を展開していく。そして最後に、「ナチュラリストをめざして迷いながらも、道草をくいながらも、なんとか歩んできた自分自身のあり方について」語る。この最終章の章題が「ナチュラリスト宣言」

なお、『考える人』2014年春号「海外児童文学ふたたび」特集より、阿川佐和子と福岡伸一の往復書簡が収録されている。福岡伸一は『ドリトル先生航海記』の新訳を手がけ、同時期に阿川佐和子は『ウィニー・ザ・プー』(アラン・アレクサンダー・ミルン著)の新訳を手がけた。どちらも新潮社より、2014年3月に上梓されている。

ひとこと

「ドリトル先生のイギリス」への旅路について、もうすこし紹介してみたい。

本書には、『ドリトル先生航海記』の冒頭が引用されている。この冒頭を読んだ少年時代のことを、福岡伸一はつぎのように綴っている。

「一行目を読み始めた瞬間から、私はたちまち吸い込まれてしまいました。私はそのままスタビンズ少年になっていました。スタビンズ少年になった私は、パドルビーの町を流れる川の岸の石垣に腰をかけ、足をぶらぶらさせながら水面を眺めていました。」

福岡伸一が『ドリトル先生航海記』を読んだのはスタビンズ少年と同じ年の頃だそうで、上記のとおりスタビンズ少年に自身を重ね合わせている。スタビンズ少年は、ドリトル先生に憧れ、ナチュラリストになりたいと願っていた。「シンイチ少年」もそうだった。

だが、上記で紹介したように、福岡伸一は「ウォルター・ロスチャイルドの道」を進んでいた。

福岡伸一はこう綴っている。「今、私はいったい何になって、何をやっているというのでしょうか。」「ドリトル先生の物語を思い出すことは、とても大切なことを私自身に想い起こさせることになる。そんな予感がして私は旅に出ることにしました。」この旅路を、「私のナチュラリストとしての旅路」と綴っている。

裏表紙を見ると、川岸の石垣の上に腰をかけ、足をぶらぶらさせている福岡伸一の写真がある。福岡伸一は物語の場所を見つけたようなのだが、しかし『ドリトル先生航海記』の「パドルビーの町」は架空の町。

福岡伸一は架空の町パドルビーを探すわけだが、この謎解き風の語りが相変わらずうまい。『ドリトル先生航海記』という虚構の世界と福岡伸一の現実の旅という、虚実がうまく織り交ぜられ、そして現実の旅をまるで物語であるかのように見せる語り口には、福岡伸一の真骨頂ともいえるうまさがある。

初投稿日:2019年03月15日

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