目に見える世界は幻想か? ——物理学の思考法

書籍情報

【光文社新書】
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著 者:
松原隆彦
出版社:
光文社
出版年:
2017年2月
定 価:
本体780円+税

物理学の発展を辿った一冊。「物理学とは、常識に対する挑戦である」

まず、「まえがき」から引用したい。

「現代の物理学は一朝一夕にできたものではなく、そこへ至るまでにさまざまな紆余曲折を経ている。そこでは、人間の常識的な考え方を何度も捨てなければならなかった。物理学とは、常識に対する挑戦である。…略…」

物理学は、どのような「紆余曲折」を経てきたのか。その物理学の発展を辿っているのが本書だ。

物理学について語ることから始めている。「なぜこの世界は存在するのだろう」

物理学の歴史を概観するまえに、「物理学の目的とは何か」と題して、物理学について、さまざまなことを語っている。

「なぜこの世界は存在するのだろう」

この問いかけから始める。この問いへの答えは見つかっていない。「だが、そんな根本的な疑問への糸口を見つけるためにも、まずこの世界の成り立ちを理解することが必要だ」という。

そして著者はこう続ける。「この世界はどういう仕組みで動いているのだろう。その仕組みがわかれば、この世界が存在する理由もわかるかもしれない。単純に言えば、物理学という研究分野はそういう目的を持っている」

こんなふうな言い方もしている。「物理学は本来、美術や音楽と同じようなものだと思う。美術や音楽は目の前にある絵画や聞こえてくる音の美しさを楽しむものだが、物理学の場合は、この世界の存在そのものの美しさを楽しむものなのだ」

美術や音楽を創作しない方でも、その美しさを楽しむ。同様に、「数式を計算する技術がなくても物理学の美しさを楽しむことはできるはずだ」と著者はいう。

具体的なことも語っている。たとえば、つぎのようなこと。

「……略……複雑なものを複雑なまま理解しようとしても、途方に暮れてしまう。そこで、まずは複雑な現象を単純な要素に分解することが有効なのだ。投げたものの運動を例にとると、ボールを目の前で数十センチ投げるだけであれば、空気抵抗の影響は小さいので無視しても結果に大差はない。空気抵抗を無視するという理想化を行うと、放り投げた物体の運動が単純な法則で理解できるのである」

「もちろん、空気抵抗の影響はゼロではない」と、小見出しを新たにして話は展開していく。

この話の展開がどのようなものか、小見出しのみを挙げてみる。「重力と空気抵抗は別々に考えられる」「物理法則とはゲームのルールのようなもの」「ルールを理解しただけではゲームに勝てない」

物理学について語ったあとで、物理学の発展を辿る

古代人は、「地上の世界」と「天上の世界」とは別世界だと考えていたようだ。そのような古代人の世界観の話からはじめて、コペルニクス、ケプラー、ガリレオ、ニュートンの話へ。

「ニュートンの万有引力の発見により、世界の見方は突如として大きく広がった。もはや天上世界と地上世界の区別はなくなったのだ」

そこから、「電磁気力」の話へと展開していく。

そして、ミクロな世界の話題へ。

「…略……原子の世界は微小なので、人間にはその存在が長い間知られていなかった。現代人には物質が原子でできていることが常識となっているが、その存在が確実に明らかとなったのはそれほど昔のことではない」

科学者が原子の存在をはっきりと認めるようになったのは、20世紀に入ってからだという。

原子の存在は、どのようにして認められるようになったのか。原子レベルの微小な世界とはどのようなものなのか。

「20世紀の物理学は、微小な世界が単純に小さいだけの世界ではないことを明らかにしたのだ。原子レベルの微小な世界は、私たちが常識的に考える世界とはまったく異なるものであった」

著者は、「奇妙な量子の世界」をたっぷりと論じていく。そしてその話を、量子コンピュータの話題で結んでいる。

量子力学の話のあとは、それに並ぶ現代物理学のもう一本の柱「相対性理論」の話となる。

「相対性理論の構築には、アインシュタインが大きな役割を果たした。基本的な考え方はほぼ彼が独力で切り開いたものだ。この時間と空間に対する新しい見方は、現代物理学の中でも燦然と輝いている」

「電気と磁気の正体」から説き起こして、相対性理論の話へと展開していく。

そして最後に、「量子重力理論」について述べる。「……略……現在私たちの持っている最善の基礎物理学が量子論と相対論であり、この2つの理論は統一がとれていない。これらを別々のものとして扱っている限り、私たちは自然界の真実に到達しているとは言えないのだ」

その統一の試みを紹介している。

最後に、「パラダイム・シフト」にまつわる著者の言葉を紹介したい

つぎのように記している。

「科学ニュースを見ていると、あたかもパラダイム・シフトででもあるかのように研究成果が紹介されることがあるが、そうしたものはすべて通常科学の段階である。……略……」

「真のパラダイム・シフトは、すぐにはそれとわからない形でやってくることが多い……略……」

「何がパラダイム・シフトになるのかは、後になって初めてわかる。前もってわからないからこそ、パラダイム・シフトと呼ばれるのだ……略……」

ひとこと

参考文献まで含めて280ページ。この紙数で物理学の発展を辿っているため、当然ながらひとつ一つの話は短い。そのため、猛スピードで駆け抜ける〝短距離走的な本〟という印象をもった。その一方で、古代から現代の最先端までの話題をとりあげているので、〝フルマラソン的な本〟という印象ももった。そんな読後感だった。

広く物理学の話題を見渡したい人向きの本だと思う。

初投稿日:2018年03月09日

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