これが物理学だ!
著 者:
ウォルター・ルーウィン
出版社:
文藝春秋
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デカルトの誤り
著 者:
アントニオ・R・ダマシオ
出版社:
筑摩書房
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宇宙を創るダークマター
著 者:
キャサリン・フリース
出版社:
日本評論社
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意識と自己
著 者:
アントニオ・R・ダマシオ
出版社:
講談社
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物理学者のすごい思考法
著 者:
橋本幸士
出版社:
集英社インターナショナル
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量子革命
著 者:
マンジット・クマール
出版社:
新潮社
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単純な脳、複雑な「私」ーーまたは、自分を使い回しながら進化した脳をめぐる4つの講義

書籍情報

【ブルーバックス】
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著 者:
池谷裕二
出版社:
講談社
出版年:
2013年9月

高校生への講義スタイル。好評だった『進化しすぎた脳』の続編

母校の高校生へ、「心の構造化」をテーマにして行った講演・講義をまとめたもの。第1章は全校講演、第2〜4章は少人数での三日間にわたる連続講義。本書ブルーバックス版では、単行本で省略された講義の一部が巻末に付論として掲載された。単行本は2009年5月に朝日出版社より刊行されている。

無意識の心の作用を「恋愛」をテーマにして伝える

たとえば、「錯誤帰属を逆手に取って、意中の人を落とすにはどうしたらいいか」という話がある。錯誤帰属とは、「自分の行動の「意味」や「目的」を、脳は早とちりして、勘違いな理由づけをしてしまうということ」と説明される。脳科学に基づくと、「好きな人を振り向かせたければ、「何かを手伝わせる」という作戦が成立する」という。講演会場ではこの「秘訣」をメモしている生徒もいたようで、やりすぎていけない、「使いっパシリ」にしないようにという笑いながらの忠告も付け加えられた。

恋愛と麻薬ヘロイン

恋愛していると、「腹側被蓋野」(A10。著者はテグメンタと呼ぶ)が活動している。この脳部位は、ヘロインという強い快感を生み出す麻薬を服用しているときにも活動する。ここは「盲目性」を生む脳部位と著者はいう。

直感は「学習」、努力の賜物

「直感」は、大脳基底核が担当しているようだ。この大脳基底核は「手続き記憶」(自転車の乗り方、コップのつかみ方など「やり方」の記憶)の座としてよく知られており、「身体」に関係した脳部位。なぜ身体に関係した大脳基底核が、身体と関係なさそうな「直感」に絡むのか。著者は「無意識」と「要訓練」という側面から熟考し、その共通点に気づく。そして、直感は「学習」という結論に達する。

記憶はどんどんと変化していく

記憶は、正確に呼び出されるというより「積極的に再構築されるもの」で、「とりわけ、思い出すときに再構築される」そうだ。記憶は、生まれては変わるという行程をくり返し、どんどんと変化していくものだという。

「身体は真実を知っている」。サブリミナル映像を用いた実験

こんな実験が紹介されている。被験者はモニターに「握れ」と表示されたら、手元のグリップを軽く握る。このとき「握れ」の表示直前に、サブリミナル映像で「がんばれ!」などのポジティブな言葉を表示する。すると、サブリミナル表示なしに比べ、握力がほぼ2倍に増加した。サブリミナル映像が意味のない文字の羅列のときは有意な増強効果はみられない。サブリミナル映像はもちろん意識にはのぼらない。しかし身体は反応している。こうした実験や「ミュラー・リヤー錯視をつまむ」話題を紹介しながら、「身体は真実を知っている」ことを示す。

「心はどこからやって来るか」

記憶やサブリミナル効果などいくつもの話題を通して「心のありか」に迫っていく。「「心はどこからやって来るか」と言われたら、脳だけではなく、身体からも来るし、周りの環境からも来る」という著者の見解が述べられている。

私たちに自由意志はあるのか?

有名な実験によると、私たちが手首を動かすとき、私たちの認知と脳活動は次のような順番になっているそうだ。脳が、手を動かすために「準備」をはじめる。私たちが、手を「動かそう」と意図する。私たちが、手が「動いた」と知覚する。脳が、手を動かす「指令」を出す。

この実験結果が示すように私たちが「動かそう」と意図するよりも前に脳の活動があるのなら、自由意志とは一体何なのか。生徒たちに発言を促しつつ講義が行われる。

また、この実験では、手が「動いた」という知覚が先で、脳の「指令」が後になっている。つまり「筋肉が動くよりも前に、「動いた」という感覚が生じる」という結果になっている。この常識とは反する実験結果についても考察される。

脳はゆらいでいる

ネズミの脳から摘出された海馬は、シャーレのなかで活発に活動しているそうだ。身体から切り離され、外部情報が入ってこない孤立した状態でも、脳の内側だけで活発に活動しているという。これは「内発活動」や「自発活動」などと言われ、この活動は強くなったり弱くなったりニューロン同士で足並みを揃えたりバラバラだったりとさまざま。脳はゆらいでいるという。この「ゆらぎ」は本書のポイントであり、詳細に取り上げられる。

驚きの「創発」

「ゆらぎ」は「ノイズ」とも呼ばれるそうだ。本書はノイズの三つの役割を解説する。その一つが「創発のためのエネルギー源」。創発とは「数少ない単純なルールに従って、同じプロセスを何度も何度も繰り返すことで、本来は想定していなかったような新しい性質を獲得する」ことだという。「心」は創発の産物のひとつだと著者は述べる。

こんなふうにも述べられている。「構造さえしっかりしていれば、後は簡単なルールを繰り返せば、自然と生命現象が創発される。そして、このとき、駆動力となるのがノイズ。原子や分子などが生み出すノイズは、いわば、無料のエネルギー源だ」と。

さらに一言付け加えられる。「生命の柔らかさは、「構造」から「機能」が生まれるだけに留まらず、逆に「機能する」ことによって、「構造を書き換える」ことにもある」と。「生命は自身を書き換える」、この能力こそが脳の可塑性の基盤だそうだ。

ひとこと

付論1は、高次元世界について。付論2は、ニューロンのネットワークのシミュレーションについて。

初投稿日:2014年10月05日

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