宇宙はなぜブラックホールを造ったのか
書籍情報
- 著 者:
- 谷口義明
- 出版社:
- 光文社
- 出版年:
- 2019年2月
ブラックホールの有名な話題を概観した一冊。最終章の「銀河の合体」にまつわる解説が読みどころ
第1章では、まず、ブラックホールの名付け親の話(ブラックホールという言葉は、一般的にはジョン・ホイーラーが使い始めたといわれているが、「じつは違う」という話)から始めて、かつて、「dark star(暗い星)」という概念を考えたジョン・ミッチェルの話題を紹介する。ここでは、「脱出速度」について説明される。
ミッチェルの「dark star(暗い星)」はニュートン力学の範疇で考えられたものだが、ブラックホールは、「一般相対性理論」の枠組みで考える必要がある。そう述べて、アルベルト・アインシュタインの「特殊相対性理論」と「一般相対性理論」の話へ。
そして、「重力崩壊」について説明して、カール・シュバルツシルトの発見の話へと展開して、ブラックホールの基本的なことを解説する。
第2章では、まず、有名な発見の話題を紹介している。カール・ジャンスキーの「宇宙電波の発見」から始めて、有名な電波銀河である「はくちょう座A」、「クェーサー」の発見について語る。そして、クェーサーの謎について解説していく。
クェーサーの謎は、膨大なエネルギーが小さな領域から出ていることだった。クェーサーのエネルギー源をめぐり「いろんな説が飛び交った」という。要請される条件は、「銀河の100倍以上の光度」「太陽系程度の小さなエネルギー源」の二つだという。「相容れない組み合わせの条件」だった。クェーサーの正体とは何か。提案された「いろんな説」を紹介したのちに、「真打ち」のアイデアについて述べる。それが、「超大質量ブラックホール説」だ。
超大質量ブラックホールはそれ自体は輝かないが、その強大な重力によって周辺にあるガスを引き寄せ、その身に、ガス円盤(降着円盤)をまとう。「輝きの源泉はこのガス円盤が担うというアイデア」だ。この「ブラックホール・エンジン」について解説する。
そのあとの見出しは「恒星の運命とブラックホール」で、星の進化にまつわる話となる。「恒星とは何か」から始めて、「白色矮星」「中性子星」「ブラックホール」について解説。ここでは、このテーマにおける有名な話題を俯瞰できる。
2章の終わりのほうでは、「スターバースト」について説明している。
第3章では、およそすべての銀河の中心には超大質量ブラックホールが存在していることを解説する。このことは、どのような観測によって明らかになってきたのか。天の川銀河(銀河系)、アンドロメダ銀河、M106(NGC4258)、M77などの観測の話題が紹介される。
そして第3章の最後で「超大質量ブラックホールと銀河の共進化」の話に触れて、最終章の第4章で、この共進化問題について、さらに見ていく。
「初代星と初代ブラックホールの組み合わせは、超大質量ブラックホールと銀河の共進化のスタートのように見える。しかし、問題はこの後である。銀河、ブラックホール、そして共進化の観点から問題点をまとめてみることにしよう」。このように述べて問題点をまとめる。
その後で、「超大質量ブラックホールがどのようにしてできたか」について論じていく。ここで「銀河の合体」についての話題が登場するのだが、この解説が、本書の中で一番おもしろいところだと思う。第2章の終わりのほうで少し紹介された「スターバースト」の話も登場する。本書の中の記述をいくつか抜き出してみる。少し長くなるが、つぎのような記述がある。
「ガスを大量に持つ銀河同士が合体すると、激しい星生成、スターバーストが発生する。たくさん生まれた大質量星は合体銀河の中にあるダストを温め、極めて明るい赤外線を放射する。そのため、超高光度赤外線銀河(あるいはウルトラ赤外線銀河)と呼ばれている。……略……」
(……略……)
「超高光度赤外線銀河は皆、合体銀河であることが知られている。しかも、単なる2個の銀河同士の合体だけではなく、数個の銀河が多重合体しているものもある(図4-8)。」「一方、比較的近くにあるクェーサーの姿を調べてみると、やはり合体の兆候を示すものがほとんどである(図4-9)。ただし、超高光度赤外線銀河に比べて、合体はより進行しているように見える。」
「このような観測事実から、「銀河の合体から超高光度赤外線銀河をへて、クェーサーに至る」というシナリオが見えてくる。……略……」
上の解説はまだ続く。
この後で、「クェーサーより暗いセイファート銀河」についての考察となり、このあたりが本書の一番の読みどころだろう。(セイファート銀河については、第3章で紹介されている。)。さらに、「モンスター銀河と原始クェーサー」について述べる。
最後に、ブラックホールの蒸発にまつわる話題と「宇宙の未来予想図」の話題がある。
ひとこと
上述した「銀河の合体」の話題をはじめて聞いた人は、最終章を楽しめるのではないだろうか。