これが物理学だ!
著 者:
ウォルター・ルーウィン
出版社:
文藝春秋
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デカルトの誤り
著 者:
アントニオ・R・ダマシオ
出版社:
筑摩書房
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宇宙を創るダークマター
著 者:
キャサリン・フリース
出版社:
日本評論社
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意識と自己
著 者:
アントニオ・R・ダマシオ
出版社:
講談社
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物理学者のすごい思考法
著 者:
橋本幸士
出版社:
集英社インターナショナル
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量子革命
著 者:
マンジット・クマール
出版社:
新潮社
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ブラックホールを見る!

書籍情報

【岩波科学ライブラリー】
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著 者:
嶺重慎
出版社:
岩波書店
出版年:
2008年5月

書名のとおり、「見る」という観点から、ブラックホールを解説している一冊。 ブラックホールをどのようにして「見る」のだろうか?

著者は、つぎのように述べている。

「ブラックホールはかつて、一般相対論を基礎とする観念上の産物であった。その存在すら議論の的であり、SFの格好のテーマでもあった。しかし、今やその存在は広く認知され、天文学に欠かすことのできない一大テーマとなった。ブラックホールの存在は、数々の「発見」により認められるようになった。とはいうものの、ブラックホールとは、重力があまりに強いために、物質も光も放出できない天体である。本来、観測は不可能のはずであるのに、どうして「見る」ことができるのだろう?……略……」

「ブラックホールの発見は、電波やX線を用いた新しい天文学に、伝統的な可視光天文学を組み合わせることによりなされた」。「われわれが電磁波で観測するのは、ブラックホール自体ではなく、ブラックホールが吸いこむ周りのガスである」という。

「ガス降着」とは何か。こう説明している。「ガスがブラックホールなどの天体の重力に引かれてそこに落ちこんでいくこと、天体に表面があればその上に降り積もることを「降着」(アクリーション)とよぶ。降着する際、ガスは重力エネルギーを解放して明るく光る。こうして、ブラックホール天体でさえも明るく光ることができる。光っているのは、ブラックホールではなく、周りの降着ガスの流れ(降着流)、あるいは降着ガスがつくる降着円盤である」

「降着円盤」について解説しているのは、第3章だ。この章では、まず、「X線で見る」「電波で見る」「可視光で見る」「赤外線で見る」という見出しがある。

「X線で見る」は、こう始まる。「ブラックホールの周りには、極限世界がひろがっている。そこは何よりも超高温の世界。温度は典型的には数千万度から数十億度にも達する。ガスがこれだけ高温になると、強いX線を出す。そこでブラックホール探査の最も有効な方法は、X線望遠鏡を使って強いX線源を探査するということになる」

ここでは、「なぜ、ガスの温度が数千万度もの高温になるのか」、「なぜ、数千万度もの高温ガスは、X線を出すのか」、この二つの疑問などを説明している。

「電波で見る」は、こう始まる。「第2章で述べたように、電波もブラックホール観測にきわめて有効である」と。

そして、「超高温ガスが、波長の短いX線も、波長の長い電波も出すのは、一見、不思議なことであるが、これは放射メカニズムの違いによる」と述べて、その違いを説明する。

「X線は、黒体放射や逆コンプトン散乱(低エネルギー光子が高エネルギー電子からエネルギーをもらって高エネルギー光子となる現象)というメカニズムで放射される。一方、磁場があると、高エネルギー電子は磁場から力を受け、その周りをらせん運動することにより電磁波を出す。これがシンクロトロン放射である。この場合の放射エネルギー量のピークが電波領域にくるので、強い電波放射が観測される。こうして、同じ高エネルギー電子が、X線と電波をともに放射するのである」。(黒体放射の説明は、「X線で見る」にある)

こう続く。

「また、電波は、ブラックホールから遠く離れたところにある低温ガスからも放射される。……略……」。「さらに、電波はX線と同様、ブラックホール近傍からのジェットからも放射される」

「可視光で見る」「赤外線で見る」も、上記同様の筆致で解説。

そのあとで、「そもそも降着ガスは、なぜ明るく光ることができる」のかを述べ、そして、「降着円盤モデル」を四つ紹介する。「標準円盤モデル」「高温降着流モデル」「超臨界降着流(スリム円盤)モデル」「極超臨界降着流(ニュートリノ冷却円盤)モデル」

この第3章では、ほかにもいくつかの話題があり、著者の研究にまつわるエピソードも登場する。たとえば、「X線新星のメカニズム」の解説がある。「これは、円盤(熱)不安定性モデルで説明される」という。

つぎのように述べている。「このモデルはまず、矮新星とよばれる、ふつうの恒星と白色矮星とからなる連星系の増光現象のモデルとして提唱されたものである。当時、東京大学にいた尾崎洋二によって基本的アイデアが提唱され、当時、立教大学にいた蓬茨霊運によってその物理メカニズムが特定され、筆者も含む世界の五グループの競争によって理論が完成した。その同じモデルが、筆者らの研究により、ブラックホールX線新星のモデルとしても有効であることが示されたのである」と。この記述のあと、円盤不安定性モデルのエッセンスを紹介する。

「ブラックホールX線新星」については、第2章で説明している。

第2章では、ほかに、つぎのような話題を取り上げている。「クェーサー」について、「はくちょう座X–1」について、「ガンマ線バースト」について、など。

第1章では、ブラックホールにまつわる基礎的なことを解説している。第4章は、「ジェット」について。最終章(第5章)の章題は、「ブラックホールを見る――今後の課題」。ここには、「超長基線電波干渉計で直接見る!」「X線干渉計で見る」「重力波で見る」「ニュートリノで見る」「マイクロレンズ効果」などの見出しがある。

ひとこと

110ページ。各章末には、「コラム」がある。

初投稿日:2016年10月23日

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