なぜビッグバンは起こったかーーインフレーション理論が解明した宇宙の起源
書籍情報
- 著 者:
- アラン・H・グース
- 訳 者:
- はやしはじめ/はやしまさる
- 出版社:
- 早川書房
- 出版年:
- 1999年6月
インフレーション宇宙論の創始者のひとりであるアラン・H・グースが、その理論を一般読者向けに、数式なしで〝詳細に〟解説。自伝的な性格もあわせもつ
インフレーション宇宙論の創始者のひとりであるアラン・H・グースが、インフレーション宇宙論の発展を、個人的な交流に基づいて描きだし、同時にその理論を数式なしで一般読者向けに〝詳細に〟解説している。自伝的な読み物でもあり、インフレーション宇宙論の詳細な解説書でもある本書は、400頁を超える大著。
著者は「はじめに」で、「読者は、原子、光子、中性子、電子については知っているだろうが、なんら特別な科学知識をもっている必要はない」と述べ、また「読むのに苦労する本ではある」とも言う。さらに、「この本で述べられている考えの中には、込み入っていて、読者に根気が求められるものもある。とりわけ、第8章と第9章のヒッグス場をめぐる議論についていくのはいささかしんどいと感じる読者も少なくないのではないかと思う」と述べている。
私は、読みながら「しんどい」と思った読者なのだが、同時にこの本は良書であるとも思った。本書が刊行されたのは1999年であり、現時点では入手しにくい本となっているが、初期宇宙に興味があり、インフレーション宇宙論を一般向けに詳細に解説した本をお探しの方であれば、図書館で借りて読んでみるとよいかもしれない。かなり前の本だが、一読の価値がある。
「宇宙は、知られているどの保存法則とも矛盾しない形で完全な無から発生しえたのだ」と著者は言う。「あらゆるものが無から創りだせるかもしれない。(中略)インフレーション宇宙論の文脈では、宇宙は究極のフリーランチだと言っていい」と述べている。
そんな話からはじまり、インフレーション宇宙論の本には必ず登場するといってもいい「平坦性問題」「地平線問題」「磁気モノポール問題」などが詳細に述べられている。もちろん、「偽の真空」とは何かを知りたい読者の要望にも応える。アンドレイ・リンデの「新しいインフレーション宇宙論」の話題もある。他にも、関連する話題が盛り沢山。
2013年の終わり頃に発売されたローレンス・クラウスの『宇宙が始まる前には何があったのか?』は、注目を集めた。この本に興味をもった方で、素粒子物理学の本も手にとっているような方であれば、きっと本書は充実した読書時間をもたらしてくれるのではないだろうか。
ひとこと
本書は、著者グースの交流をもとにインフレーション宇宙論の発展を辿るため、グースよりもすこし先に、独立に、インフレーション宇宙論を提唱した佐藤勝彦の話題は本文に登場しない。