エントロピーをめぐる冒険ーー初心者のための統計熱力学
書籍情報
- 著 者:
- 鈴木炎
- 出版社:
- 講談社
- 出版年:
- 2014年12月
科学者の物語を織り込みながら、エントロピーを軸に熱力学・統計力学の知識を紹介する
本書には、熱力学、統計力学の発展に寄与した数多の科学者たちが登場する。その中からつぎの3名、サディ・カルノー、ルートヴィヒ・ボルツマン、ジョサイア・ウィラード・ギブズにフォーカスして、その物語を丹念に描き出している。
まず科学者の物語を読み、そのあと熱力学や統計力学の知識を学ぶ、これが交互に繰り返されるような構成になっている。
著者の鈴木炎は、本書出版時点では「富山大学理学部化学科准教授」で、「理学部化学科の学生を対象とした化学熱力学、並びに経済学部の学生を対象とした一般化学の講義を担当している」(本書の著者紹介より)とのこと。
「理系の高校生」をおもな読者に想定した解説
「エントロピーや熱力学についてもっと詳しく知りたいという理系の高校生」をおもな読者に想定しており、数式も見せながら説明している。
すなわち解説は、「理系の高校生」を対象にしたレベルといえる。
大まかな構成について
サディ・カルノーの物語を丁寧に描き出し、「カルノー・サイクル」と「カルノーの原理」を紹介する。
「エネルギーの発見」の小見出しで、マイヤー、ジュール、ウィリアム・トムソン(ケルヴィン卿)にまつわる話題に簡単に触れる。そのあと、ルドルフ・クラウジウスが導入した「エントロピー」という概念について説明していく。
ルートヴィヒ・ボルツマンおよびジェームズ・クラーク・マクスウェルの物語を挟み、「気体分子の速度分布(マクスウェルーボルツマン分布)」と、ボルツマンの論文の代表作だという「第二法則とエントロピーの本質にぐさりと切り込んだ記念碑的な二報ーーいわゆる<H定理>論文(1872年)と<確率論>論文(1877年)」について述べていく。また、原子や分子の実在をめぐる論争を紹介する。
さらに、分子レベルでエントロピーにまつわる説明がなされる。
そして本書の3人目の主役、ジョサイア・ウィラード・ギブズの物語と、その「偉業」を語る。
ギブズの「第一の偉業」は、「熱力学の完成」だと述べて、「ギブズ自由エネルギー(ギブズエネルギー)」および「化学ポテンシャル」にまつわる話題を見ていく。そのあとで、「第二の偉業」は統計力学の確立であることを語り、「分配関数」に焦点を絞って説明する。
最後に、ギブズ以降に簡単に触れる。
感想・ひとこと
高校時代に文系を自認した、この分野の知識をもたない読者なら、難しいと感じるのではないだろうか。「初心者のための統計熱力学」という副題だが、私が望んでいたような文系の初心者向けの入門書ではなかった。でも、科学者の物語はおもしろく読めるし、多くの知識に触れることができたので読後の満足感のようなものはある。