エントロピーと秩序ーー熱力学第二法則への招待
書籍情報
- 著 者:
- ピーター・W・アトキンス
- 訳 者:
- 米沢富美子/森弘之
- 出版社:
- 筑摩書房
- 出版年:
- 2025年11月
さまざまな「モデル」を用いて「本質」を浮き彫りにしながら、熱力学第二法則を解説。生命の話題にまで広がっていく
本書の特徴のひとつは、さまざまな「モデル」を用いて解説しているところ。
たとえば、宇宙を単純化したモデル(「小宇宙」と呼んでいる)を導入し、そのひとつである「1600個の原子」からできている宇宙モデル(「タイプ1小宇宙モデル」)を用いて、エネルギーの分散の過程を説明している。
また、化学反応が進む過程を「モデル」を用いることによって簡略化して説明し、「反応の本質」を述べている。
他にも「モデル」による説明があり、このように「モデル」を用いて「本質」を浮き彫りにしていく試みが、本書の大きな特徴となっている。
もうひとつの特徴は、「開放系」の熱力学を取り上げ、散逸構造を説明しているところ。私たちは散逸構造だという。
生命の話題にまで広がっていくところが、おもしろい。
エネルギーの分散とエントロピーの増加
上述したように「タイプ1小宇宙モデル」を用いて、「エネルギーの分散」過程を説明し、「温度」について、「系の温度とエネルギーの違い」について解説していき、そのあとで、つぎのように記している。
「……個々の原子の振る舞いという言葉で第二法則を表現すると、「エネルギーは分散する傾向にある」ということになるだろう……」
「……これから話を進めていくにつれて、エネルギー分散という単純なアイデアでもって、この奇想天外な自然界のありとあらゆる変化を説明できることが、ますますはっきりわかってくるだろう。エネルギーが分散することを理解すれば、自然界の最も源となるものをも理解することができる。」
これは、3章の記述。
4章では、ボルツマンの方程式から説き起こして、ふたたび「タイプ1小宇宙モデル」を用いて、エントロピーについて説明していき、つぎのように記している。
「つまり、「エネルギーは分散する傾向にある」ことは、「エントロピーは増加する傾向にある」というのと等価なのである。」
ここからさらに、熱平衡の解説へと続いていく。
この「タイプ1小宇宙モデル」を用いた丁寧かつユニークな解説は、本書の読みどころのひとつだろう。
本書の大まかな内容
熱力学の法則について見ていき、エネルギー保存則や、「熱と仕事の間の非対称性」などを説明。熱と仕事の概念について述べている。
エントロピー、エネルギー、温度、について解説している。
たとえば、エントロピーについては、こんな記述がある。「……「エントロピー」というのは、「エネルギーが蓄積されるさいのようすを分類するラベル」であると考えてよい。」。これは、2章の記述。
また、「カルノーエンジン」などの説明がある。
それから、化学反応の本質について見ていく。
「温度の力を明らかにする旅」があり、「ふつうの温度」(絶対温度で表し、300Kとしている)から出発して、冷却について述べて、30K、3K、0.3Kというように、1桁ずつ下がった世界を紹介している。そのあと、「ふつうの温度」から1桁上げた3000Kの世界などを見ていく。さらに、「負の温度」が登場。
「構造の出現」についての解説がある。「一滴の油が水の中でなぜちらばって溶けていかないのか」について、タンパク質の構造について見ていく。ここから、「自由エネルギー」を説明。さらに、自由エネルギーと化学反応の関係を踏まえて、生体での反応について述べる。
そして、「開放系」の熱力学を取り上げ、散逸構造を説明している。
かなり大まかな紹介だが、このような内容をとおして、熱力学第二法則を浮き彫りにする。
感想・ひとこと
本書は、1992年に日経サイエンス社より刊行された名著と称される一冊が文庫化されたもの。名著という評価に納得できる、読み応えのある本だった。熱力学第二法則に興味をもった方におすすめしたい。
「熱力学・統計力学」をテーマにした書籍は、本書で4冊目だったが、このタイミングで手にとったのは良かったような気がする。もし、同テーマの最初の1冊目として読んでいたら、〝かなり手ごわい本〟と感じたかも。
ボリュームもあるので、読み進めるにはある程度の時間がかかると思うが、熱力学第二法則に興味をもったら、ぜひ読んでおきたい一冊だと思う。































