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免疫の守護者 制御性T細胞とはなにか

書籍情報

【ブルーバックス】
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著 者:
坂口志文/塚﨑朝子
出版社:
講談社
出版年:
2020年10月

制御性T細胞の発見者である坂口志文が、自身の研究の歩みを綴りながら、その発見の経緯や医療への応用を丹念に描き出す

「免疫自己寛容の維持に中心的な役割を果たしている」制御性T細胞。本書では、その発見者坂口志文が、生い立ちから、「免疫自己寛容」の解明という研究テーマとの出会い、制御性T細胞の発見の経緯や医療への応用、将来展望まで丹念に描き出している。

第一章で全体を見渡し、その後の章で詳しく述べる、という理解しやすい構成になっている。

共著者の塚﨑朝子は「生命科学を専門とするジャーナリスト」。本書の原稿は、塚﨑朝子が「複数回のインタビューや原著論文をはじめとする文献に基づいて草稿を書き起こし」、坂口志文が「手を入れる形で仕上げていった」とのこと。

制御性T細胞の発見の物語

著者の坂口志文は、京都大学医学部時代に自己免疫疾患の存在を知ったという。そのときのことを、つぎのように綴っている。

「……免疫系というシステムが持つ「非自己は攻撃しても、自己は攻撃しない」という二律背反性に興味を持った。それに反して、自己を攻撃することで起こってくるのが、自己免疫疾患である。その事実が示唆するものはとても哲学的であり、強い印象を受けたことが、研究者として歩みだす出発点になった。」

生後三日前後に胸腺を摘出されたマウスは、ヒトの自己免疫疾患とよく似た病変を自然に発症した。研究の道を歩みはじめた坂口志文は、この現象の解析に取り組み、「自己免疫疾患を抑えるT細胞」があることを突き止めた。

しかし、坂口の制御性T細胞が注目されるまでには時間を要した。当時、「抑制性T細胞(サプレッサーT細胞)」の仮説が否定され、「免疫応答を抑制するT細胞」という考え自体が誤りと認識されていた。

坂口は制御性T細胞の分子マーカーを探り当て、さらに制御性T細胞で働く遺伝子を解明し、その存在を明確なものにしていく。本書では、実験方法も交えて発見のストーリーが綴られている。また、制御性T細胞とサプレッサーT細胞の違いについても説明されている。

制御性T細胞の医療への応用

制御性T細胞を用いた免疫療法は、がん、自己免疫疾患、感染症、アレルギー疾患の治療、臓器移植の際の拒絶反応の制御など、さまざまな分野において有望視されているという。

がん免疫療法については、その歴史も簡単に振り返りながら、ひとつの章を割いて解説している。

著者は、がん細胞は「〝自己もどき〟の細胞」だと述べ、つぎのように記している。

「……がん細胞に対する「腫瘍免疫」とは、ある意味で「自己免疫」だと捉えるのが妥当である。免疫療法では、がん細胞を「非自己」と見なすのでなく、「自己」の抗原に対する免疫応答によって排除する方法を考慮すべきなのである。」

感想・ひとこと

「あとがき」で、「……若い研究者、学生の方々が、私が経験してきたこのような世界を面白く思い、それが研究を志す刺激になればうれしく思う。」と述べているので、生命科学や医学系の学生を主な読者に想定していると思われる。高校生も含めて、この分野の研究に興味をもっている方におすすめしたい一冊。

科学の発見物語を好む私のような一般読者にとっても面白い本だが、免疫学をテーマにした一般書を読んでから本書を手にしたほうが理解しやすいと思う。

初投稿日:2024年04月30日

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