これが物理学だ!
著 者:
ウォルター・ルーウィン
出版社:
文藝春秋
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デカルトの誤り
著 者:
アントニオ・R・ダマシオ
出版社:
筑摩書房
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宇宙を創るダークマター
著 者:
キャサリン・フリース
出版社:
日本評論社
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意識と自己
著 者:
アントニオ・R・ダマシオ
出版社:
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物理学者のすごい思考法
著 者:
橋本幸士
出版社:
集英社インターナショナル
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量子革命
著 者:
マンジット・クマール
出版社:
新潮社
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昆虫は最強の生物であるーー4億年の進化がもたらした驚異の生存戦略

書籍情報

【単行本】
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著 者:
スコット・リチャード・ショー
訳 者:
藤原多伽夫
出版社:
河出書房新社
出版年:
2016年7月

「節足動物」中心の生命史。カンブリア紀から新生代まで、節足動物を中心に見ていき、その時代において語るにふさわしい節足動物たちを紹介している。節足動物を賞賛する一冊

「無脊椎動物の時代」、「魚の時代」、「両生類の時代」、「爬虫類の時代」あるいは「恐竜の時代」、「哺乳類の時代」。このような呼び名は「人間中心神話」だと、著者は批判する。こう述べている。「哺乳類や爬虫類、両生類、魚類が急増した時代について語るということは、ヒトという種の起源にいたる、ある意味で薄っぺらい歴史を見ているにすぎない」と。

たとえば、カンブリア紀が「無脊椎動物の時代」と一般的に呼ばれていることに不快感を示す。「…略…外骨格の発達をたたえるというよりもむしろ、脊椎の不在を示すことによって節足動物の繁栄をどことなくあざ笑っているかのようだ」。カンブリア紀は、「「節足動物の時代」や「三葉虫の時代」という呼び名も適切ではあるのだが、誰もそう呼ぼうとしなかった」

著者スコット・リチャード・ショーは、「昆虫の進化と分類を研究していて、新種の発見と記載、命名に取り組んでいる」。「分野でいうと、昆虫分類学と呼ばれる学問だ」。「第10章 新生代を想う」で、こう記している。「私は学生とともにエクアドルを訪れ、ヤナヤク雲霧林――地球上で屈指の種の多様性を誇る雲霧林――でまだ発見されていない微小な昆虫を探しに来たところだ」

このような研究をしている著者が、「節足動物」中心の生命史を描き出すことを試みたのが本書だ。カンブリア紀から新生代まで、節足動物を中心に見ていき、その時代において語るにふさわしい節足動物たちを紹介している。

では、各章の内容を簡単に紹介してみたい。

「プロローグ――昆虫とタイムトラベル」

こう始める。「一〇月のある日の午後遅く、コスタリカのサン・ラモン生物保護区の多雨林を通る小道を歩きながら、時間の性質に思いを巡らせ、ここにタイムマシンがあればなあと願った」。そして著者は、「タイムマシン」に出会う。それは、「一匹のカミキリムシ」だ。カミキリムシをとおして、「節足動物」中心の生命史を概観する。

「第1章 虫だらけの惑星」

「地球は虫だらけの惑星だ」という。「これまでに発見されて命名されたものだけで、昆虫の種類は一〇〇万種近くに達する」。「こうした成功を考えれば、昆虫が文字通り地球に君臨していると言っても、決して過言ではない」。この章では、種の定義、生物の分類、「ほかの動物に比べて、昆虫はなぜ圧倒的な多様性を獲得するにいたったのか」などを述べている。

「第2章 節足動物の誕生」。カンブリア紀とオルドビス紀の話題

「生痕化石」や「三葉虫」などについて語っている。また、「外骨格」「体節」「関節のある脚」について解説している。

「外骨格」について。「骨格の進化について考えてみよう」と述べ、こう記す。「骨格が最初に発達したとき、可能なアプローチは二つしかなかった。体の外側を骨格で覆って内部で成長する軟らかい細胞の支持と保護を行うか、体内に骨格をつくって体を支えるかのいずれかだ。つまり、外骨格(三葉虫スタイル)か内骨格(魚スタイル)のどちらかを選択することになる」。それぞれの利点や欠点を述べたあとで、「ここで読者の皆さんに提唱したい。動物の体の形として優れているのは、外骨格のほうだ」と語る。

「第3章 シルル紀の陸上進出」

「私くらいの年代の読者なら、人類が初めて月面を歩いた一九六九年七月の出来事を覚えているだろう」と語り始めて、「地球の生命の歴史には、人類の月面着陸と同じくらい歴史的に重要な一歩がほかにもあると、私はここで提唱したい」と述べる。それは、「動物が初めて海から出て上陸した瞬間だ」

たとえば、つぎのような記述がある。

「これまで多くの生物学者は、まず植物が陸に進出して生態系を確立しなければ、動物は陸にすめなかっただろうと考えていた。しかし、それは必ずしも正しいわけではなく、そう反論するだけの明確な証拠もある。たとえば、オルドビス紀後期の堆積物からは節足動物の足跡の化石がいくつも見つかっている。当時すでに陸上には植物が分布してはいたが、その足跡化石を見れば、節足動物が陸地に進出し始めた当時、開けた湿地を歩き回っていたことは明らかだ。そこは植物の分布域からかなり離れていた」

ここでは、「ビーチに進出したサソリ」、三種類の多足類(ムカデ綱、ヤスデ綱、コムカデ綱)などについて述べている。

「第4章 コケの下、二メートルの世界」。デボン紀の話題

たとえば、「六脚類」についての解説がある。「デボン紀に六本脚を発達させて以来、昆虫はずっとその特徴をもち続けてきた。何千万種にも及ぶ現生の昆虫種すべてが、六脚類である」という。(ただし、いくつか例外があるそうで、それについても触れている)

「二本脚の欠点、六本脚の利点」を述べてから、トビムシ目、コムシ目、イシノミ目を紹介する。

「現代の昆虫学者は、トビムシやコムシのように口器が頭部に収まっているか、ほかの大半の六脚類のように口器がはっきりと露出しているかに応じて、六脚類を分けている」

「この基準から考えると、口器の大顎が露出した六脚類だけが、つまりイシノミとその近縁種、それらの子孫だけが、本当の昆虫に当たるということだ」

「そうなると、本当の昆虫であると明確に言える最古の化石は、ライニー・チャートから見つかった四億七〇〇万年前から三億九六〇〇万年前の」リニオグナタの化石なのかもしれないという。「一個の歯のような化石に基づいた推測でしかないものの、この生物は現生のほとんどの昆虫種と同じように、大顎が二つの関節丘(関節の突起)で頭部とつながっている点が非常に興味深い」

「現在確実にわかっているのは、本当の昆虫がデボン紀に出現し、その昆虫が現れた陸地の生態系が遅くともシルル紀には存在していたということだ」。地球が「虫の惑星」になったと語っている。

「第5章 空中を舞う昆虫たち」。石炭紀の話題

著者は、カゲロウの「熱狂的な交尾のダンス」を目撃した。それを、つぎのように描写している。

「父の日のバーベキューを楽しんでいると偶然、おびただしい数のヒラタカゲロウが、木という木や茂み、そしてコテージを覆い尽くす光景を目にしたのだ。夜のあいだに湖から出てきたのだろう。……略……。日が暮れ始め、湖面が夕日で真っ赤に染まると、カゲロウたちが活動を始めた。何千、何百万というおびただしい数のカゲロウが、熱狂的な交尾のダンスを繰り広げたのである。カゲロウの群れがつくる広大な雲が、見渡す限りの湖畔を覆った。……略……」

そして、カゲロウを紹介する。たとえば、こんな記述がある。「カゲロウは旧翅類(旧翅節)の昆虫の一つで、原初の翅をもった現生の昆虫としては最古の部類に入る。カゲロウを見る機会があったら、じっくり観察してほしい。石炭紀に当たるおよそ三億三〇〇〇万年前に空を飛び始めた形跡が見られるはずだ。……略……」。(紹介はまだまだ続く)

この章では、「初めての飛翔」について述べている。「ペンシルベニア紀(石炭紀後期、およそ三億二〇〇〇万年前)になる頃には、最初期の飛翔昆虫が森林に出現していた」という。(「翅の起源に関してさまざまな説があっても、石炭紀のミシシッピ紀末(およそ三億二七〇〇万年前)までに翅が出現していたという大枠が揺らぐことはない」という記述もある)

「昆虫が空を飛ぶようになった起源を知るにはまず、空飛ぶ生き物が進化する基となった祖先が何だったかを考えなければならない。石炭紀にはシミ目(Zygentoma)という単純な昆虫の目が出現した。これはセイヨウシミやマダラシミの仲間で、飛翔昆虫に最も近縁であると考えられている。……略……」と説明が続く。そのあとで、翅の起源に関するさまざまな説を紹介している。

「定番は決してすたれない」。「最も古い翅の形状――胸部の上面に位置し、薄い膜を骨格で支えた平らな板――はきわめて単純だが非常に効率が良く、カゲロウやトンボといった現生の昆虫に今でも見られる」。この記述から、翅の説明へ。それから、「こうした太古の手法で飛んでいる現生の昆虫はカゲロウとトンボだけではあるが、初めて出現した当時、この手法は動物の移動の仕組みとしては最新で最も優れた革新技術だった」と述べ、旧翅類「ムカシアミバネムシ目」を紹介する。

また、「オオトンボ目」も取り上げている。「オオトンボ目のなかでも熱帯にすむメガネウラ科(Meganeuridae)には、史上最大の昆虫が含まれている」という。

ほかに、「新翅類(新翅節)」についても述べている。

「第6章 古生代の大量絶滅」。ペルム紀の話題

ペルム紀末の大量絶滅や、「完全変態の始まり」などの話題がある。

「現生の昆虫種の九割以上が完全変態をするグループに分類されていることを考えれば、完全変態は昆虫が長期にわたって繁栄するうえで、おそらく最も重要な要素と言えるだろう」。完全変態の利点などを述べている。

ペルム紀で「古生代」が終わる。著者は、その終わりをつぎのように表現した。

「…略…古生代の終わりに関しては、それを告げる単一の出来事を挙げられるかもしれない。私ならば、三葉虫の最後の一匹が死んだ日を挙げる。古生代の象徴として、三葉虫ほどふさわしい生き物はいないのではないか。三億年以上にもわたって海中に君臨した三葉虫だが、およそ二億五二〇〇万年前のある日、もしかしたら雲が垂れこめた朝に、最後の一匹が浅い潮だまりで食べるのをやめた。その死骸は海面へと浮かび、仲間たちの死骸とともに引き潮に洗われ、浜辺に打ち上げられた。……略……。当時、寂しげな浜辺に鳥はまだ存在していなかったが、何かがちょこまか歩き回った小さな足跡はあった。ゴキブリが一匹、また一匹とやって来て、浜に打ち上げられた三葉虫の死骸を発見し、それをむさぼったのだろう。もしかしたら、近くの倒木で触角を伸ばしていた一匹の甲虫が、様子をうかがおうとその場に飛んできて、ゴキブリの相伴にあずかったかもしれない。……略……。イギリスの詩人T・S・エリオットの詩を引用するなら、「爆音はなく、ただしめやかに」古生代の幕が下りると、昆虫たちは高らかに勝利を宣言した。……略……」

「第7章 三畳紀の春」「第8章 ジュラシック・パークでピクニック」「第9章 白亜紀の繁栄と大量絶滅」

本書において、「中生代」(三畳紀、ジュラ紀、白亜紀)の〝主役〟は「恐竜」ではない。恐竜は、〝脇役〟として登場する。〝主役〟はもちろん「昆虫」で、とくにスポットライトを浴びているのが、「ハチ目」だ。そのなかでも、「寄生バチ」について詳しく論じている。「ハチが刺すようになるまで」「寄生の二つのかたち」などの見出しがある。

「ハチ目」に関するところを、いくつか引用してみる。

「ナギナタハバチは、三畳紀から地球上に存在し続けてきた「生きた化石」だ。ハナバチやアリ、社会性のカリバチ、寄生バチといった最も繁栄している昆虫を含んだ系統であるハチ目(Hymenoptera)で、ナギナタハバチは最も原始的な現生のグループである」

「ハチ目(Hymenoptera)で最初に出現したナギナタハバチも、三畳紀の樹木の梢で進化した」

「梢で飛び回っていたこのハバチの祖先から、ハナバチ、アリ、社会性のカリバチといった多様な社会性昆虫や、巣に貯食するカリバチ、多様な寄生バチがやがて誕生した」

「ジュラ紀前期のある時期、若いキバチが祖先から受け継いだベジタリアン生活に反旗を翻し、甲虫の幼虫を食べ始めた。これが、寄生バチの王国の始まりだ。やがてこうした肉食のハチは多様化し、すでに森の中に出現していた多種多様な昆虫の一部を食べるように分化していった。ジュラ紀が終わる頃には、寄生バチは数百種に増え、白亜紀末には数千種に達して、現在では数十万種、いやひょっとしたら数百万種に及んでいるとみられる」

「ハチ目」以外にも、「ナナフシ目」「シロアリ目」「チョウ目」、などなど、さまざまな昆虫の話題を紹介している。

「第10章 新生代を想う」

この章には、たとえば、「希少種の悲劇」という見出しがある。つぎのように述べている。

「いま私たちは、大量絶滅が危惧される新たな時代のただ中に暮らしている。それを起こしている大きな原因は、地球の生物多様性の大部分を支えている熱帯林の急速な破壊だ。……略……。昆虫、とりわけ熱帯にすむ希少種は、生息域が狭く、きわめて脆弱で小さなニッチに生息しているものが多いことから、特に深刻な危機に瀕している。……略……」

「もちろん過去には絶滅の危機が数多くあったし、小規模な危機もたくさんあった。しかし、今回は四〇億年近い生命の歴史のなかで初めて、たった一つの種が地球規模で拡散したことによって、大量絶滅が引き起こされているのだ」。その種とは、ホモ・サピエンス、つまり私たちヒトだという。

「生物種は一つひとつが固有の存在であるということを、忘れてはならない。それぞれの種が生態系のなかで独特の役割を果たし、その遺伝子には他種にない形質が刻み込まれている」。「……略……生き物という宝物、四〇億年に及ぶ生命の進化を今に伝える生物たちを毎日失っているのだから、誰もがもっとこの現実に危機感をもつべきだ」と、著者は述べている。

「後記――虫だらけの宇宙説」

地球外生命について考察している。「生命が存在する宇宙は虫であふれている」という説を披露している。

ひとこと

この本は、生命史とも言えるし、昆虫の解説書とも言える。そんな印象をもった。また、このレビューでは触れていないが、植物の話もいくつか登場する。

初投稿日:2016年09月13日

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