巨大ブラックホールの謎 ——宇宙最大の「時空の穴」に迫る

書籍情報

【ブルーバックス】
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著 者:
本間希樹
出版社:
講談社
出版年:
2017年4月
定 価:
本体1,000円+税

「巨大ブラックホール」の存在を浮かび上がらせた観測的研究の歴史を辿り、「巨大ブラックホールの直接撮像」に挑むプロジェクトを、その観測技術の解説を交えながら紹介する

「あとがき」の記述から紹介したい。つぎのように述べている。

「私たちの長年の夢であった観測の実現が、いよいよ秒読みに入りました。筆者は今、ハワイ島にきています。その理由はもちろん、目の前に迫ったEHTによる観測のためです。EHTプロジェクトのメンバーの一人として、その観測網の一局であるJCMT望遠鏡の観測オペレーションに参加します。巨大ブラックホールの姿を初めてとらえると期待される記念すべき観測に、立ちあうことになります。これまで10年近くこのプロジェクトに関わってきたことを振り返ると、ついにこの時が来たことに大きな感慨を覚えます」

本書の特徴は、観測天文学者の視点(電波天文学者の視点)で、「巨大ブラックホール」にまつわる観測の話題を紹介していること。この特徴が表れてくるのは、第4章以降だ。

第1章と第2章では、ブラックホールの基本的なことを概説している。第3章は、おもに理論的な話題。

第4章では、20世紀初期の観測の話題を紹介している。20世紀初め、現在のような宇宙像はまだ確立されていなかったという。その状況を変えていくのが「20世紀前後に建設された口径1メートルクラスの(当時としては大型の)望遠鏡」だそうだ。

著者は、こう記している。「……略……「星雲の正体は何か」を明らかにするために、これらの写真を撮ったり、星雲からやってくる光の波長(スペクトル)を測定したりするようになりました。そのような流れの中で、「銀河」が認識され、そして「銀河の中心部」が興味の対象となり、巨大ブラックホールの研究の基盤が作られていきます」と。

そして、「スペクトル」について説明する。

その後で、「活動銀河中心核の発見」について述べる。「……略……星雲(銀河)の観測を続けていくうちに、天文学者たちは変わった星雲の存在に気が付きます。普通の星雲に比べて、中心部が特に明るく輝いているものがあるのです。「活動銀河中心核」(Active Galactic Nuclei : AGN)と呼ばれる天体です。……略……」。この記述から、エドワード・ファスの研究を紹介する。

ファスが観測した天体の中に、NGC1068(M77)という天体があった。「この天体は中心部に周りに比べて明るい「核」を持って」いる。ファスは、この中心核のスペクトルを測定した。「彼は1909年にリック天文台報に発表した論文で、他の天体と異なり明るい輝線が見えたことを報告しています。これが、「活動銀河中心核」というものを輝線の観測から捉えた最初の記録です」

NGC1068(M77)のスペクトルについて、さらに詳しい観測を行ったのが、ベスト・スライファーだという。著者は、スライファーの研究を紹介する。

そして、ヒーバー・カーチスによる「宇宙ジェットの発見」について述べる。カーチスは、1918年にリック天文台報に発表した論文の中で、「おとめ座のM87星雲について、「とても明るい星雲で、渦巻きはない(略)、星雲の中心から不思議な光線が出ている」、と記述して」いるという。著者は、こう続ける。「この「不思議な光線」こそが、M87の中心にある巨大ブラックホールから出ているジェットなのです」

さらに、カーチスとハーロー・シャープレーの「大論争」を紹介し、その後で、エドウィン・ハッブルの有名な発見について述べていく。

この章の最後のほうで、著者はこう記す。「……略(ファスやスライファーの研究に再び触れている)……。一方、このような銀河の中心核のスペクトルが多くの天体について観測され、系統的に調べられるようになったのは、さらに少し時間が経った1940年代になってからのことです」。そして、カール・セイファートの研究を紹介する。

しかし、「セイファートの時代の活動銀河中心核の観測的研究は、……略……、その活動性の物理的原因、特に巨大ブラックホールとの関係については、まだわからない状況」だったという。

第5章では、電波天文学の発展を丹念に辿る。

「いわばピンボケ写真のような状態で電波の観測は始まった」という。「ピンボケ写真しか撮れなかった電波天文学を劇的に変えたのが、電波干渉計」だそうだ。

この章は、「電波天文学の最初の1ページを開いた人物」カール・ジャンスキーの話から始まる。そして、「電波天文学を興した」グロート・リーバー、「いろいろな電波天体の位置や大きさを、海面干渉計を用いて測定した」ジョン・ボルトンらのチーム、「現代の形の電波干渉計を開発して、電波天文学を大きく進歩させた」マーチン・ライルらのグループ、の研究について述べて、その後で、「クェーサーの発見」にまつわる話題を紹介する。

このような流れで電波天文学の発展を辿り、そこに「望遠鏡の視力の話」や、電波干渉計の技術的な解説などを織り込む。

第6章では、クェーサーのエネルギー源について述べ、X線天文学の発展を辿り、「地球規模の巨大望遠鏡VLBI」を解説する。ほかに、ジェットと降着円盤の話題がある。VLBI(超長基線干渉法)は、本書における「重要技術」で、著者の研究においても「中心的な観測手法」だという。

第7章は、こう始まる。「1970年代中頃までに巨大ブラックホールの概念が基本的に確立し、活動銀河中心核は巨大ブラックホールとその周囲の降着円盤、そしてジェットという3つの成分からなるシステムとして考えられるようになりました。……略……」。「わずか3つの成分」だが、活動銀河中心核は「多様性に富んでいる」という。この章では、その多様性について説明する。

第8章は、銀河の中心にあると考えられている巨大ブラックホールを間接的に探すことについて。「巨大ブラックホールがあるということは、銀河の中心に大きな質量の集中があるはず」、それを検出することが探査の第一歩だそうだ。そして、「なるべく銀河の中心の小さな領域を見極めて質量を測ること」が求められるという。この章では、巨大ブラックホール探査の歴史を概観している。日本人研究者の活躍も描かれる。

第9章では、「謎」に焦点を当てて、巨大ブラックホールと降着円盤とジェットについて見ていく。

そして最終章(第10章)では、「巨大ブラックホールの直接撮像」にまつわる話を紹介する。(観測が行われる直前までの話題)

「当面の観測対象は、いて座AスターとM87がツートップ」になる、狙うのは「ブラックホールシャドウ」、「いて座AスターやM87のブラックホールシャドウを分解するのに必要な視力は、最低でも300万(分解能にして20マイクロ秒角)」になる、など、さまざまな話が登場する。また、このプロジェクトにおける著者らの活動についても述べている。

ひとこと

「まえがき」で著者は、「もし物理が苦手で1、2章がわかりにくいと感じる読者がいましたら、思い切って1、2章を飛ばして3章から読んでいただくのも手です」と述べている。

(ブラックホールの本を読んだことがある読者であれば)第4章から読んでみるのもありかもしれない。

初投稿日:2017年07月30日

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