恐竜はホタルを見たか ——発光生物が照らす進化の謎

書籍情報

【岩波科学ライブラリー】
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著 者:
大場裕一
出版社:
岩波書店
出版年:
2016年5月
定 価:
本体1,300円+税

「進化」の視点で、発光生物を論じた一冊

本書のテーマは、生物の「発光」(生物発光)。まず、発光生物とは何か、生物発光とは何か、その定義から説明している。

「そもそも発光生物とはなんだろう。基本的には、「人間の眼に見える光(可視光)をみずから出している生物種」が発光生物。また、その生物が光を出す現象のことを「生物発光」という」

では、生物発光のメカニズムはどのようなものか。こう述べている。「生物発光は基本的に酵素と基質の反応であるが、この発光反応に使われる酵素のことを「ルシフェラーゼ」、基質のことを「ルシフェリン」と呼ぶ」。(「基質」「酵素」の説明もある。また、発光反応をもう少し詳しく説明している)

しかし、「ルシフェリン」「ルシフェラーゼ」と一口にいっても、それは、発光生物によって異なるらしい。たとえば、ホタルとウミホタルのルシフェリンは化学構造がまったく異なっており、また、ルシフェラーゼは、「どちらも約五〇〇個のアミノ酸からなるが、使われているアミノ酸配列には類似性はまったくない」。「ホタルのルシフェリンにウミホタルのルシフェラーゼを混ぜてもまったく光らない」という。

つまり、「発光生物の発光メカニズムは生物ごとに異なっている」(ただし、「近縁な種同士には当てはまらない」)。このことは、「進化の視点で考えれば当然のこと」だという。つぎのように述べている。「ホタルは昆虫の仲間、ウミホタルは甲殻類の仲間である。どちらも同じ節足動物ではあるが、その両者は進化の過程で五億年以上前に袂を分かった遠い関係。だからそれぞれの発光形質(…「形質」の説明は略…)は、両者の共通祖先がもともと持っていたわけではもちろんなく、それぞれの系統の中で独立に現れたのだ」。「言い換えると、ホタルは光らない昆虫の祖先から進化し、ウミホタルは光らない甲殻類から光るように進化した」

「進化」の視点。著者は、この視点で発光生物を研究している。これまでの発光生物の研究は、おもに、「発光メカニズムの研究」と「発光の生物学的役割の研究」に大きく分かれて進んできたという。著者は、「進化」をキーワードに、発光生物の研究を統合しようと試みており、それを「発光生物学」と名づけた。この本には、その「大きなビジョン」を描いた、と語る。

書名と似た「ティラノサウルスはホタルを見たか」という章の冒頭には、ダーウィン『種の起原』第六章(一八五九年)のつぎの言葉を引用している。「科や目の異なる少数の昆虫に発光器が存在することも、また同様な難問をわたしに突きつけている。」

そして、この章をつぎのようにはじめる。「光を出すという特殊な化学反応が、ほんとうに生命の進化の歴史の中で何度も独立に起こったなどということはありうるのだろうか」。ここでは、ホタルのルシフェラーゼの進化についての著者らの研究を紹介し、その結論をつぎのように述べる。「この結果は、ルシフェラーゼという特殊な(ように思える)酵素が、発光とは無関係な酵素からいとも簡単に進化しうることを意味する」と。「少なくともルシフェラーゼについては、ダーウィンの心配事は杞憂だった」と述べている。

この結論から、「生物発光の進化の鍵のありかは、発光反応のもうひとつの要素「ルシフェリン」だ」という。「ルシフェリンをどうやって作り出すか(あるいは手に入れるか)」なのだと。

発光生物には、ルシフェリンを「自分自身で作っている」ものと、「餌から手に入れている」ものとがいるようだ。

ルシフェリンのひとつに、「セレンテラジン」と呼ばれるものがある。そして、海には、セレンテラジンを使って発光している生物が多いそうだ。「セレンテラジンを使って光っている生物は、種数としてもバイオマスとしても、系統関係の壁を越えて著しく多いのは間違いないだろう」という。そして、こう続ける。「このことは、海に数多くの発光生物をもたらした鍵がセレンテラジンにあることを物語っている」と。

著者は、「最もありえる仮説は、誰かがセレンテラジンを作っていて、他のセレンテラジンを使って発光する生物たちはそれを食べることで発光基質を手に入れている可能性だ」と述べる。

では、セレンテラジンを作りだしているのは「誰」なのか。

著者が注目したのが、コペポーダだ。コペポーダは、「海のお米」とも呼ばれるそうで、「海の動物性バイオマス全体の中で大きな割合を占めており、あらゆる海の生物の餌になっている。発光種も多く、発光生物たちの活躍舞台である中深層にも分布している」という。

著者らは実験によって、「発光性コペポーダはセレンテラジンを自身の体内で生合成していること」を明らかにする。この実験のために必要な、生きた発光性コペポーダを、どのようにして手に入れたのかも綴っている。

ほかにも、発光生物にまつわるさまざまな知見を紹介している。120ページ。

ひとこと

書名に「恐竜」の文字があるが、発光生物に興味がある方が読む本であり、恐竜に興味がある方が読む本ではない。もちろん、恐竜の進化についての話題はない。ホタル科の起源(白亜紀くらいと推定されたそうだ)の話題で、恐竜のことにほんの少し触れている。

初投稿日:2016年07月25日

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