生命の内と外

書籍情報

【新潮選書】
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著 者:
永田和宏
出版社:
新潮社
出版年:
2017年1月
定 価:
本体1,300円+税

「閉じつつ、開いて」いる細胞膜に焦点をあて、生命の巧妙な仕組みを浮き彫りにした一冊

「変わりつつ、しかもなお変わらない」。このような性質は、生命の本質としてきわめて大切だという。

外界は常に変化している。その急激な変化に応じて自身を変えていたのでは、「生命の自律性と統一性はたちまち危機に瀕する」。「外界の変化を取り込み、対応しつつ、全体としては、内部の変化を最小限に抑える必要がある。これを恒常性(ホメオスタシス)の維持と言う」

恒常性は、個体レベルでも、細胞レベルでも維持されている。「あるいは維持すべく努力している(そして、時に破綻をきたす)」

個体は、細胞の集合体。「すべての生物は細胞という基本単位の単独あるいは集合体からなっている」。これが、細胞生物学の基本概念の要約の一つめだ。著者・永田和宏はこの要約を三つ挙げている。二つめは、「細胞はすでに存在する細胞からのみ生成する」。三つめは、「個々の細胞そのものが生命の基本単位として自律的に生命活動を行い得る」

二つめの「細胞は細胞から」には、矛盾が抱え込まれている。最初の細胞は? という疑問だ。

最初の細胞は、「生命が生命であるための最低限の条件を備えていたはず」だという。では、生命の最低限の条件とはどのようなものか。著者・永田和宏は、つぎの三つを挙げる。「外界から区別された単位であること」「自己複製し、子孫を残せること」「代謝活動を行っていること」

「生命は、まず外部から区画化されるところから始まった」

原始地球の海で生命が生まれるためには、まず何が必要だったのか。成立だけを先に考えると、一つは「外界から区画される」こと、もう一つは「何らかの代謝を行い得る」こと、この二つだという。

かつて、生化学者アレクサンドル・オパーリンは、こう述べたそうだ。「生命にとってもっとも特徴的なことは物質代謝であります。すなわち、生物が生きているということは、外界との間に物質およびエネルギーのだしいれをおこなっている間だけのことなのです」(岩波新書『生命の起原と生化学』)と。

では、原始の海でどのように生命の「区画化」は起こったのか。著者・永田和宏は、つぎのように記す。

「水環境のなかで、ある特定の区域のみを選別区画するためには、水に<不溶性>の物質で囲う以外にはない。生命はそのような材料として、脂質を採用した」

「水環境のなかで膜として両親媒性の脂質を採用したのが、成功の鍵であったと言ってもいいだろう。コアセルベート様の高分子複合体と、それを囲みこもうとする脂質の二重膜。原始の海のなかで、それらがめまぐるしく生々流転を繰り返しつつ、ある確率でバクテリアの祖先としての細胞が生まれたのだろうと考えられる」

「細胞は脂質二重層からなる細胞膜によって外界と隔てられている。隔てられることによって、生命は<自己>を獲得したのだと言ってもいい」

つまり、膜は「閉じて」いなければならない。

しかし、完全に閉じていたのでは生命を維持することはできない。代謝を行う必要がある。「出し入れ」が必要なのだ。

したがって、膜は「閉じつつ、開いて」いなければならない。

このような「アポリア(困難)」はどのようにして解決されているのか。恒常性はどのようにして維持されているのか。それを紹介しているのが、本書だ。

ひとこと

専門用語がたくさん出てくる本。著者・永田和宏は、こう述べている。「…略…。極力専門用語も減らすようにした。しかし、細胞や生命活動のほんとうのおもしろさ、奥深さを知っていただくためには、単なる比喩を用いたうわっつらだけの記述では、それを読者に実感してもらうことはできないと私は考えている。読者に対して却って失礼と考えるものである」と。著者のこの言葉に共感できる方は、この本を、とても読み応えのある面白い本、と感じるのではないだろうか。

初投稿日:2017年10月01日

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