ブラックホール・膨張宇宙・重力波ーー一般相対性理論の100年と展開
書籍情報
- 著 者:
- 真貝寿明
- 出版社:
- 光文社
- 出版年:
- 2015年9月
書名の3つ、ブラックホール・膨張宇宙・重力波は、「一般相対性理論から導かれる物理現象であり、現在の研究者が真剣に取り組んでいる研究テーマ」だという。本書は、「一般相対性理論に関連する研究に携わって25年」になる著者が、上記の3つの概説を軸にして、一般相対性理論の100年を描き出したもの
まず、アインシュタインの人生を辿り、ニュートンの業績などの「物理学小史」を交えながら、特殊相対性理論と一般相対性理論を概説する。ここまでで本書の3分の1くらい(第1〜第3章)
第4章は、ブラックホールの概説。ここには、アインシュタイン方程式の「厳密解」の説明がある。こんなふうに述べている。「アインシュタイン方程式を数式として解いた解を(数値的な解と区別して)「厳密解」という。シュヴァルツシルト解は、初めて発見されたアインシュタイン方程式の厳密解である」
シュヴァルツシルト解は、ブラックホールを表す解。本書はこれを記載している(図22)。本文にはこんな説明がある。「シュヴァルツシルトの解には、不思議な点が含まれていた。無限大が発生する箇所が二つあったのだ(図22)」。図22では、二つの箇所を↑で示している。ひとつは「時空特異点」、もうひとつは「シュヴァルツシルト半径」と呼ばれる。
ほかのブラックホール解についても解説している。カーによって発見された解は、「回転するブラックホール解」。発見にまつわるエピソードを交えて説明している。「カー解は一定の速さで全体が回転しているブラックホールである。回転をゼロとすれば、シュヴァルツシルト解に戻る」という。カー解はとても重要なものらしい。「ブラックホールの唯一性定理」などの話がある。
「裸の特異点」の解説では、「ワイル解」、「冨松・佐藤解」が登場。こんなふうに説明する。「ワイル解も冨松・佐藤解も時空特異点を持つが、地平面はない。いわば特異点が地平面に隠されずに直接見えてしまう構造になっている。このようにブラックホール地平面に隠されない特異点を、裸の特異点(naked singularity)があるという。ペンローズが命名したニックネームである」
もちろん、星の進化の話題もある。「ブラックホールは、星の燃え尽きた最期の姿の一つとして理解されている」という。ここでは、有名な論争である、チャンドラセカールとエディントンの論争、オッペンハイマーとホイーラーの論争などを紹介している。また、「白色矮星」や「中性子星」を理解するために必要な知識も解説。そのまえに準備として、「量子論」を少し解説。
ほかに、「ブラックホール候補天体の発見」、「ブラックホールの蒸発理論」、「ホログラフィック原理」、「高次元ブラックホール」などの話題がある。
第5章は「宇宙論」を、第6章は「重力波」を概説する。
「重力波観測は、今、相対性理論研究の中で、一番ホットな話題である」という。重力波とは何か。本書はこう説明する。「重力波とは、「時空のゆがみ」が波として空間を光速で伝わる現象である。いわば時空のさざ波だ」と。
重力波は物理的な実在なのだろうか。アインシュタイン自身もいっとき混乱したらしい。本書は、そのエピソードを紹介して、この話をこう締めくくる。「重力波が物理的に現象として存在しうるものであり、エネルギーを運ぶ実体であることが数学的に証明されたのは、56年にピラーニによってであり、アインシュタインの死後のことである」と。
ほかに、つぎのような話題がある。「重力波の弱さ」の理由、重力波検出実験を行なったウェーバーのエピソード、「連星パルサー」の発見、「レーザー干渉計計画」、「重力波の予想される波形」、「重力波から何がわかるか」、など。
「「重力波の存在を(間接的にだが)確認した」と言われる証拠」についても説明している。
ひとこと
「アインシュタイン方程式を数値シミュレーションする分野」(「数値相対論」と呼ぶそうだ)の話題もある。著者は、大学院に進学したとき(1992年)に、指導教授からこの分野を強く勧められたそうだ。ここでは、シミュレーションにまつわるいろいろな話が紹介されるのだが、最後に〝ぶっ飛ぶ〟話がある。いや、文字どおり〝ぶっ飛ぶ〟のだ。なにが? ブラックホールが! シミュレーションによると、「最大秒速2000kmで飛び続けるブラックホールがあるかもしれない」という。