免疫の守護者 制御性T細胞とはなにか
著 者:
坂口志文/塚﨑朝子
出版社:
講談社
No image
新しい免疫入門
著 者:
審良静男/黒崎知博
出版社:
講談社
No image
幸福感に関する生物学的随想
著 者:
本庶佑
出版社:
祥伝社
No image
免疫の意味論
著 者:
多田富雄
出版社:
青土社
No image
遺伝子が語る免疫学夜話
著 者:
橋本求
出版社:
晶文社
No image
美しき免疫の力
著 者:
ダニエル・M・デイヴィス
出版社:
NHK出版
No image

井ノ口馨の本、どれを読む?

「井ノ口馨の本、どれを読む?」メイン画像

記憶のしくみを分子レベルから解き明かす。その解明を通して目指すのは、「人間とは何か、自分とは何者か」という問いに答えること

井ノ口馨(いのくち・かおる)は、富山大学卓越教授。専門は分子脳科学。2020年にアイドリング脳科学研究センターを設立(センター長)。

分子生物学者・神経科学者で、長年にわたり記憶の研究を行っている。記憶を分子レベルで研究しており、その研究を手がかりに「人間とは何か、自分とは何者か」という問いに迫ろうとしている。

高校時代にドイツの哲学者たちの著作を貪り読んだ井ノ口馨は、最初は哲学者になろうと思い、そのうちに「哲学のようにいくら思弁をやっても答えが出ない。そうではなくサイエンスベースで問い直してみたい」(『記憶をコントロールする』)と思うようになった。

研究の出発点は、「人間とは何か、自分とは何者か」という問いかけだった。そう語る井ノ口馨は、いつか自身の研究の集大成について著すとき、きわめて難題なこの問いに対してどんな見解を綴るのだろうか。〝哲学的な問いと科学の融合こそがおもしろい〟と思っている読者であれば、注目しておきたい著者だ。

現在出版されている著書では、「記憶」研究の歴史を概観し、また自身の研究成果を研究エピソードを織り込みながら解説し、現代脳科学がどこまで「記憶のしくみ」に迫っているのかを紹介している。

井ノ口馨らの研究に関しては、現時点では、神経新生が海馬での記憶の消去に関与しているという研究(『セル』に発表)、「シナプスタグ仮説」を実証した研究(『サイエンス』に発表)、ほかに、「記憶の連合」にまつわる研究を紹介している。また、研究成果の医学的応用についても論じている。

(追記:2025年9月)
『アイドリング脳』にて、その後の研究成果も知ることができる。

「2023年11月に、イギリスの王立協会(The Royal Society)に招かれて記憶研究やアイドリング脳について講演」(『アイドリング脳』)を行っている。

井ノ口馨の書籍

2025年9月時点で、井ノ口馨の一般向けの科学本は以下のとおり。

研究者としての自身の歩みや思考を交えながら、記憶やひらめきに関する研究成果を紹介する『アイドリング脳』

本書では、研究者としての自身の歩みや思考を披露し、また記憶の基礎を簡潔に説明し、記憶やひらめきに関する研究成果を紹介している。また、自身のひらめき体験も交えて、「ひらめきを得るためには、アイドリング脳が必要」という見解を示している。

【幻冬舎新書】
アイドリング脳
著 者:
井ノ口馨
出版社:
幻冬舎
No image

脳科学の研究史を辿り、脳科学の基礎知識を伝授し、そして分子脳科学によって明らかにされてきた「記憶研究のフロンティア」を伝えた『記憶をあやつる』

本書のクライマックスは、2015年に著者・井ノ口馨らのグループが発表した論文について紹介するところ。この論文のテーマは、「人工的な記憶の連合」だという。書名のように少し劇的に言えば、著者らは脳科学的手法によって、マウスの記憶をあやつったのだ。「記憶の連合」とは何かを説明した後で、著者らの論文を紹介している。他にも、「セル・アセンブリ(細胞集成体)仮説」にまつわる話、「場所細胞」にまつわる話など、たくさんの話題がある。入門書として最適な一冊。

【角川選書】
記憶をあやつる
著 者:
井ノ口馨
出版社:
KADOKAWA
No image

「脳科学、記憶研究」へ「若い俊才たち」を招待する『記憶をコントロールする』

プロローグでは、「なぜ研究者になったか」を綴っている。井ノ口馨の研究の出発点は、「人間とは何か、自分とは何者か」という問いかけだった。ある一冊の本が井ノ口馨を記憶研究に導いたのと同様に、本書は「若い俊才たち」を記憶研究に招待する一冊。こう呼びかけている。「ぜひ脳科学、記憶研究に興味を持ってほしい。あなたが明日のガリレオ、ニュートンかもしれない」と。記憶の最前線を紹介して、「若い俊才たち」を記憶研究にいざなう一冊。

【岩波科学ライブラリー】
記憶をコントロールする
著 者:
井ノ口馨
出版社:
岩波書店
No image

井ノ口馨の本、どれを読む?

(追記:2025年9月)
最初の一冊としては、2024年11月に出版された最新刊『アイドリング脳』が良いかも。著者の研究者としての思考や、これまでの研究成果を概観することができる。他の二冊はどちらも、2025年9月現在、増刷・重版されていないので入手しにくい。

【幻冬舎新書】
アイドリング脳
著 者:
井ノ口馨
出版社:
幻冬舎
No image

以下は、2018年に、『記憶をコントロールする』と『記憶をあやつる』のどちらを読むのがおすすめかを、それぞれの特徴を比較しながら紹介したもの。

一般レベルでなるべく詳しく解説してほしいなら『記憶をコントロールする』、やさしいわかりやすい解説がお好みなら『記憶をあやつる』。こんな分け方ができるのではないだろうか。

『記憶をコントロールする』は、脳科学の本をある程度読んでいる方を読者として想定している。一方の『記憶をあやつる』は、脳科学の知識ゼロの方を読者として想定している。(と思う)

どちらの本を選んでも主要な話題を知ることはできる。この二冊の特徴を、その違いに焦点をあてて紹介してみると、こんな感じだろうか。

『記憶をコントロールする』(2013年出版)には、著者の自伝的エピソードがたくさん盛り込まれている。実験手法について詳しく説明されている(一般向けレベル)。「神経新生が海馬での記憶の消去に関与している」という著者らの研究が詳しく紹介されている。約120ページのため、速いテンポで進む。

『記憶をあやつる』(2015年出版)には、脳科学の研究史と基礎知識が盛り込まれている。したがって入門書的。(前著のような自伝的なエピソードはない)。「記憶の連合」について詳しく説明されている。(前著で詳しく書いてある神経新生の話は簡単に紹介されている)。2015年の著者らの研究が紹介されている。約200ページ。

なので、二冊読んでもどちらも楽しめると思う(当然ながら重複する話題もある)。私は二冊ともおもしろかったので、どちらもおすすめしたい。

読む順番としては、出版された順でもよいのだが、脳科学の本をあまり読んでいない方なら、入門書的な『記憶をあやつる』を先に読んでみるのもありかもしれない。私は、『記憶をあやつる』を記憶の脳科学〝入門書〟としておすすめしている。

【角川選書】
記憶をあやつる
著 者:
井ノ口馨
出版社:
KADOKAWA
No image

井ノ口馨 profile

『記憶をあやつる』より(一部省略して)引用

1955年生まれ。1979年、名古屋大学農学部卒。1984年、同大学大学院農学研究科博士課程終了。農学博士。米国コロンビア大学医学部、三菱化学生命科学研究所研究主幹を経て、2009年より富山大学大学院医学薬学研究部(医学)教授。専門は分子脳科学。2010年に時実利彦記念賞(日本神経科学学会)を、2013年に文部科学大臣表彰科学技術賞(研究部門)を受賞。

(引用終わり)

2019年、紫綬褒章受章。
2019年、富山大学卓越教授。
2020年、アイドリング脳科学研究センターを設立(センター長)。

初投稿日:2018年05月10日最終加筆:2025年09月23日

おすすめ本

著者案内

レビュー「著者案内:橋本幸士」のメイン画像「著者案内:本庶佑」の画像「著者案内オリヴァー・サックス」の画像「デイヴィッド・J・リンデンの本、どれを読む?」メイン画像「デイヴィッド・イーグルマンの本、どれを読む?」メイン画像「井ノ口馨の本、どれを読む?」メイン画像「櫻井武の本、どれを読む?」メイン画像「多田将の本、どれを読む?」メイン画像「リチャード・ドーキンスの本、どれを読む?」メイン画像「福岡伸一の本、どれを読む?」メイン画像「傳田光洋の本、どれを読む?」メイン画像「マイケル・S.ガザニガの本、どれを読む?」メイン画像「アントニオ・R・ダマシオの本、どれを読む?」メイン画像「池谷裕二の本、どれを読む?」メイン画像「リサ・ランドールの本、どれを読む?」メイン画像「ジョゼフ・ルドゥーの本、どれを読む?」メイン画像「V.S.ラマチャンドランの本、どれを読む?」メイン画像「村山斉の本、どれを読む?」メイン画像「大栗博司の本、どれを読む?」メイン画像

テーマ案内