動的平衡3 ——チャンスは準備された心にのみ降り立つ

書籍情報

【単行本】
No image
著 者:
福岡伸一
出版社:
木楽舎
出版年:
2017年12月
定 価:
本体1,500円+税

著者・福岡伸一のおもな主張が盛り込まれているエッセイ集

本書は、著者・福岡伸一が「月刊誌ソトコトに連載した「生命浮遊」の原稿に加筆、修正を加え、再構成したもの」。基本的にはエッセイ集だが、福岡伸一の生命観である「動的平衡」が本書の通奏低音となっていると言えなくもない。〝言えなくもない〟という曖昧な書き方をしたのは、そうではないエッセイも含まれているから。

第1章「動的平衡組織論」では、「プロセスを大切にすること」という話から始めて、商行為などの話を織り交ぜながら「エントロピー増大の法則」について説明し、そして「動的平衡」という生命観とはどのようなものかを語る。ここでは、「動的平衡を組織論に応用する」ことを試みている。サッカーの岡田武史監督と対談した時の話も登場する。

第2章「水について考える」は、ヴェネツィアの話から始まる。ちょっと文章の雰囲気を紹介したい。

「両側に建物が迫る迷路のようなヴェネツィアの小路をさまよって歩くと、思いがけず石畳の広場に出ることがある。これはカンポと呼ばれる公共の場所で、大小さまざまなカンポがヴェネツィア中に散在している。そして中央には必ず装飾のついた石造りの構造物。これが ポッツォだ。一見、井戸のようだが、単なる井戸ではない。唯一の真水である雨水を集める仕組みなのだ」

ここから、「海水」ばかりのヴェネツィアで、昔どのようにして「真水」を確保したのかを説明。かつて使用されていた「雨水濾過装置」の話だ。

雨水の浄化の話から、今度は、「私たちの身体の約七〇パーセントは水でできている」こと、そして生物に備わっている「浄化システム」の話となる。「浄化システム」とは腎臓。

「生物は生きていくうえでどうしても真水が必要だ」。ここから、良質の水とはどんな水かを語り、さらに「ニューヨークの真水事情」へと展開。

第3章「老化とは何か」では主に、「分化」について、「早老症」について、語っている。「老化とは風化に似ている」と綴り、「エントロピー増大の法則」と絡めて結んでいる。「……略……結果的にエントロピー増大の法則という名の風化作用に、徐々に負けていくプロセス、それが老化なのである」

第4章「科学者は、なぜ捏造するのか」は、「STAP細胞騒動」の話。

第5章「記憶の設計図」では、「ゴルジ体」の話から始めて、カミッロ・ゴルジとサンチャゴ・ラモン・イ・カハールにまつわる話題を述べて、神経回路について説明。そして記憶の話となる。つぎの文章を紹介したい。

「その答えがまさに、記憶はニューロンとシナプスの回路によって保存されている、というものだった。ニューロンもシナプスもたくさんのタンパク質から構成されている。そのタンパク質はどれも動的平衡の中にあって合成と分解を繰り返し、絶え間なく更新されているが、ニューロンとシナプスの回路の全体像さえ保存されていれば――それを構成している個々の要素が入れ替わったとしても――記憶は保存されることになる」

(「とはいえ、最近の研究によれば、記憶自体も実は更新されていることが明らかになってきている」と続く)

ここでは、小説家カズオ・イシグロの名言も記されている。「記憶は死に対する部分的な勝利である」

第6章「遺伝子をつかまえて」では、ノーベル賞の話から始めて、著者・福岡伸一の「ヒーロー」であるルドルフ・シェーンハイマーについての話を織り込みながら、動的平衡について語る。そして、著者らが「GP2遺伝子」をどのようにして、「つかまえ」たのかを解説。

第7章「「がんと生きる」を考える」では、千葉敦子著『ニューヨークでがんと生きる』の話から始めて、がん細胞と免疫細胞などを解説。最後の小見出しは、「がん治療の画期的な展望」。ここで紹介されている研究成果は、「まだ基礎研究段階であり、すぐにヒトの治療に応用することはできない」ものだそうだ。しかし著者は、「がん研究に新しい展望が開かれたことは間違いない」と結んでいる。

第8章「動的平衡芸術論」には、さまざまな話題が登場する。小見出しのみを並べると、「プロフェッショナルの定義」「音楽の起源」「エッシャーの到達点」「生命と芸術の局在論」、など。

「音楽の起源」について、少し紹介したい。「多くの研究者は、音楽の進化論的な起源が、生物の求愛行動コミュニケーションにあると考えている」そうだ。しかし著者・福岡伸一の考えは少し違っていて、「音楽とは、私たちが外部に作り出した生命のリズムのレファレンスなのだ」という。

第9章「チャンスは準備された心にのみ降り立つ」では、まず、「抗生物質の発見」について語る。「チャンスは準備された心にのみ降り立つ」は、フランスの微生物学者ルイ・パスツールの言葉とされている。ここでは、「準備された心」をもっていたという「スコットランドの医学者、アレクサンダー・フレミング」にまつわる話を紹介している。フレミングが「抗生物質の最初の発見者とされる」。彼には、ある種のルーズさと、準備された心があったという。

そして、もう一つ、この章では「アップル社の創始者、スティーブ・ジョブズ」の話題を紹介している。ジョブズの有名なスピーチも登場。

第10章「微生物の狩人」は、おもに「腸内細菌」の話題。

最後に「サンガー会の思い出――あとがきにかえて」がある。

ひとこと

福岡伸一のエッセイらしく、生物学の話とそうでない話がバランスよく盛り込まれている。「はじめに」と「あとがき」がないのは残念なところ。

初投稿日:2018年04月10日

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