記憶の脳科学〝入門書〟としておすすめの本

記憶をあやつる

著者:井ノ口馨

この本は、怪しげな書名だが、脳科学にもとづいて記憶を解説した正統派的な一冊だ。私は、〝入門書のお手本〟のような本だと思っている。脳科学の本をあまり読んでいない方が記憶に興味を持ったら、まず、この本を読んでみることをおすすめしたい。

脳科学の研究史を辿ることから始めているので、すんなりと読み始められると思う。そして、科学史的な話を楽しんでいるうちに、近寄りがたい(?)用語を知り、記憶研究の最前線を知るための準備が整っていく。

たとえば、「可塑性」という言葉。

なんとなく遠ざかりたくなる字面(?)をしているが、この本では語源から始めてわかりやすく簡潔に説明してくれている。ぜひ紹介したい。

「可塑性は英語のplasticityの訳語で、その語源はplastic、つまりプラスティックです。プラスティックというと、普通は容器などに使う石油由来の合成樹脂を思い出しますが、もともとは何らかの力を加えると形が変わり、力がなくなっても形は元に戻らない、つまり変形したままの形が残る性質を指す形容詞です。」「たとえば、粘土の塊に握りこぶしをグッと押し付けると、握りこぶしの形が付きます。手を離してもその形は粘土に残る。これを「可塑的な性質」といいます。……略……」

どうだろう? ちょっとした教養も得られるし、説明もわかりやすい。(この説明をわかりやすいと思わなかった方には、もちろんこの本をおすすめできない)

わかりやすい説明ではあるが、この本は、わかりやすい初歩的な内容だけが書かれている本ではない。記憶研究の最前線(2015年出版時点)も紹介している。まず、脳科学の研究史を辿り、脳科学の基礎知識を伝授し、記憶のしくみを解説し、そして記憶研究の最前線を紹介するという流れだ。これで、200ページに満たないというのが、じつにいい。これくらいの紙数だと難しい内容があっても疲れない。

記憶の分類も大まかにわかりやすくまとめてくれているので、その点も入門書的だ。

ただし、非陳述記憶とワーキングメモリについて知りたい方にはおすすめできない。おもに陳述記憶をとりあげている本なので。

〝陳述記憶と非陳述記憶といった分類のことも知らないし、脳科学の本もあまり読んだことがないけど、記憶の脳科学に興味がある〟 このような方に本書は最適だ。誤解のないように付け加えれば、脳科学の本をよく読んでいる方も楽しめる。脳科学の研究史のところは読み物として楽しめるし、記憶研究の最先端も紹介しているので、きっと楽しめる。

内容については書評ページを。

初投稿日:2018年04月01日

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