これが物理学だ!
著 者:
ウォルター・ルーウィン
出版社:
文藝春秋
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デカルトの誤り
著 者:
アントニオ・R・ダマシオ
出版社:
筑摩書房
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宇宙を創るダークマター
著 者:
キャサリン・フリース
出版社:
日本評論社
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意識と自己
著 者:
アントニオ・R・ダマシオ
出版社:
講談社
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物理学者のすごい思考法
著 者:
橋本幸士
出版社:
集英社インターナショナル
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量子革命
著 者:
マンジット・クマール
出版社:
新潮社
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「科学にすがるな!」ーー宇宙と死をめぐる特別授業

書籍情報

【単行本】
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著 者:
佐藤文隆/艸場よしみ
出版社:
岩波書店
出版年:
2013年1月
【岩波現代文庫】
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著 者:
佐藤文隆/艸場よしみ
出版社:
岩波書店
出版年:
2023年1月

本書のプロローグは、艸場よしみから佐藤文隆への手紙で始まる

「宇宙研究の最前線を切り拓いてこられた先生が、「死ぬ意味、生まれてきた意味」についてどうお考えになっているのか、お話をお聞きしたいと思い、このようなお手紙を差し上げました」。この書き出しから、その想いを綴っていく。

艸場よしみと佐藤文隆は、1年にわたり何度か会って話をした。対談や取材というより、佐藤文隆が、艸場よしみに「特別授業」をしたという雰囲気で描かれている。

その「特別授業」の1年を通して、艸場よしみが、「死」を、物理学や宇宙を、そして佐藤文隆をどのように考えたのかを、艸場よしみの心境を〝地の文〟で綴りながら、会った時の佐藤文隆の言葉、二人の会話、ときにはその日の情景、佐藤の著書の言葉などを交えて描き出しているのが本書だ。

すなわち、本書の佐藤文隆は、いわば登場人物だ。艸場よしみのフィルターを通した「佐藤文隆像」と言える。(佐藤文隆は「あとがき」で、「佐藤の意見や考えを正確に伝えることを意図したわけではない」と記している)。この本の著者は二人だが、執筆者は、艸場よしみということ。それが、この本の特徴であり、また魅力だと思う。

科学者の視点で「死」を語ってほしいという艸場よしみに、「いかに生きるか」を語り続ける佐藤文隆

二人がはじめて会ったとき、艸場よしみは、こう言った。「端的にいえば、言葉がほしいのです。安らかに死ぬための言葉を。哲学や宗教の視点ではなく、科学者の視点で死を語っていただきたいのです」と。

佐藤文隆は「死」をどう語ったのか? 「いかに生きるかをずっと語られたのだと思います」と艸場よしみはエピローグで振り返っている。

「死」という言葉に焦点をあてて問い続ける艸場よしみに、「生」に焦点を当てて佐藤文隆は語ったのだ。では、どのような観点から「生」を語ったのか?

それは、「公共」という観点からだ。人間とは社会的動物であるという観点からとも言える。そして、このことを伝えるうえで、佐藤文隆が用いている言葉が、「第三の実在」だ。「第三の世界」とも言い換えている。

佐藤文隆は、つぎのように語る。

「人間とは、社会的動物です。サイエンスの知識を得る前から、「そうだよね」「そうだよね」といいながら合意して世界をつくり上げてきた。その時代時代の、自然をハンドルできる能力で社会をつくってきたわけです」

「われわれ人間には集団的につくり上げてきたものがある。それが虚像であっても、人間集団にとっては実在なのだよ」

この言葉を受けて、艸場よしみは、こう綴る。「先生のいう意味がわからずに、窓の外をぼんやり見つめていた」

「ぼくは、実在には三つあると考えている」と佐藤文隆。

そして、「第一の実在」と「第二の実在」が、つぎのように説明される。

「このかたいカップは第一の実在で、外界です。石でもいいし地球でもいい。人間がいなくても外界はある。しかしこれをカップだとぼくたちが認識するのは、電気信号の作用。いっぽう夢も、頭のどこかで信号が起きたことによる。つまりカップだと思うことと夢で思ったことは、同レベルの話なのだよ。これは第二の実在です。外界に対して内界、つまり人間の内部です。…略…」。(本書では、この文章の前後に、もう少し補足説明がある)

そして、こう述べる。「さて、第三の実在とは、ぼくたち人間が社会的に受け継いできたものをいう」。「人間は社会的な動物だ、言語だとか慣習とかはぜんぶ第三の実在である、文学も科学も宗教も」と。

「第三の実在」についての二人の会話が続き、その後で佐藤文隆は、こう語った。

「科学的に原子や分子のレベルでいえば、生とは有機的な集合体ができることで、死とはそれがふたたびバラバラになっていくだけのこと」

「やはり、そうなのか」と思う艸場よしみに、「しかしね」と続ける佐藤文隆。

「これは「死」ではない。「死」というとき、すでにサイエンスではないのだよ。死という現象は、第一世界の現象だとは思わない。第三の世界の概念です。死というのは第三の世界のターミノロジーで、サイエンスがわかったところで死がわかるわけではない」

艸場よしみが「では何を尋ねればいいのだろう」と、「考えをまとめることができない」でいると、佐藤文隆がつぎのように言った。

「ぼくはね、人間とは実にけなげな存在であると思うよ」

「けなげ」についての話が、もうすこし続く。ここまでの会話は、初対面での会話(第1章)だ。

このあと、艸場よしみは、ときに叱られながら(しかし「なぜかすがすがしい気分」で)、また途方に暮れながら、宇宙と人間の生死について佐藤文隆に問い続ける。そして佐藤文隆は、「いかに生きるか」を語り続ける。

その語りを通して、艸場よしみは自身の気持ちがどう変化していったのかを綴る。また、宇宙、素粒子、真空、量子力学、一般相対論、熱力学などにまつわる話を織り込む。そして、佐藤文隆の死生観と「佐藤文隆像」を浮き彫りにする。

「知識は何のためにあるのか」、佐藤文隆の考える物理学とは何か、さまざまな話が登場する読み応えのある本だ。

ひとこと

「死生観」がメインテーマと言える本だが、「社会的」ということについて考えてみたい方にもオススメできる本。

初投稿日:2017年06月20日

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