あなたの脳のはなし ——神経科学者が解き明かす意識の謎

書籍情報

【単行本】
No image
著 者:
デイヴィッド・イーグルマン
訳 者:
大田直子
出版社:
早川書房
出版年:
2017年9月
定 価:
本体1,800円+税

海外で好評だった「テレビシリーズ」の書籍版

「訳者あとがき」によると、本書は、「アメリカのPBS、イギリスのBBC、およびオーストラリアのSBSで、二〇一五年から一六年に放送されたテレビシリーズの書籍版」。そのテレビシリーズについては、つぎのように述べている。

「テレビシリーズは一話一時間ずつ計六話にわたって、イーグルマン自身がプレゼンターとなり、私たちの脳について、現実認識について、さらには人間であるとはどういうことかについて、一般視聴者に向けてわかりやすく解説し、ニューヨーク・タイムズ紙のベスト・テレビジョン・ショーに選ばれるなど、メディアでも高い評価を受けている」

私たちは、「ゆりかごから墓場までずっと、製作中の未完成品である」

成人の脳の重さは1300グラム。「固まったゼリーのよう」な硬さらしい。外観はシワだらけ。そのような脳の写真も収録している。その写真、手のひらの上の脳は、ただの物質の塊にしか見えない。

著者はこう語り始める。「私たちの思考や夢、記憶や経験はすべて、この奇妙な神経物質から生まれる。私たちが何ものであるかは、そこで起こる電気化学パルスの複雑な発火パターンでわかる」と。その活動が変われば、私たちも変わるという。

生まれてくるとき私たちの脳は「未完成」であり、それは、その後の経験の一つひとつによって作り上げられていくという。人間の脳は、生まれつきすべてが配線された「ハードワイヤード」ではなく、「ライブワイヤード」なのだと語っている。

脳の発育について、著者は述べる。シナプス形成について、「人との正常な交流が欠乏していた子ども」の発達の事例、10代の脳について、など。

幼少期と青年期の脳の変化は、25歳になるまでに終わるという。だが、それ以降も、脳は変化を続ける。経験が脳を変化させるのだ。

もし、脳が病気やけがで変化すれば、その人の人格や行動も変化してしまうらしい。そのような事例も紹介している。

「脳という身体的なものがつねに変化しているからには、私たちもつねに変化している」。私たちは、「ゆりかごから墓場までずっと、製作中の未完成品」だという。

視覚系の話題を軸にして、「現実とは何か」を論じる

図版のなかの「四角A」と「四角B」は、同じ色には見えない。だが、AとBはまったく同じ色をしている。このような「錯視」の事例を紹介する。

マイク・メイは、3歳半のとき視力を失った。角膜が傷ついたそうだ。失明してから40年以上が経ち、彼は手術を受けた。「マイクの新しい角膜は期待どおりに光を受け取り、それに焦点を合わせていた。しかし、彼の脳は受け取っている情報を理解できなかった」という。マイク・メイの経験を綴った著者は、こう記す。「マイクの経験からわかるのは、視覚系がカメラのようなものではないということだ」

また著者は、二匹の子ネコを用いた研究を紹介し、「視覚は全身の経験なのだ」と述べる。

こんな話題もある。「目やその他の感覚器官からの情報を受け取る前に、脳は独自の現実を生み出す。これは内部モデルと呼ばれる」

青空、緑の木々、真っ赤なリンゴ……。私たちにはこの外部世界には色があるように思えるのだが、「実際には外部世界に色は存在しない」という。

他にも、「共感覚」「時間のゆがみ」など多彩な話題を盛り込んで、「現実とは何か」について論じている。

「意識は傍観者」。「無意識の脳」に光をあてる

「あなたの行動、信念、そして偏見もすべて、あなたが意識的にアクセスすることができない、脳内のネットワークによって決定される」という。私たちの脳内では、ニューロン集団が互いに争っているらしい。「脳は対立からつくられたマシン」だそうだ。

「無意識の脳」に光をあて、私たちはどのようにして決断するのかを丁寧に論じている。

人間の社会性を、脳回路の観点から見ていく

1歳未満の赤ん坊に、親切なクマと意地悪なクマの登場する人形劇(セリフはない)を見せる。ほぼすべての赤ん坊は、親切なクマを遊び相手として選ぶそうだ。誰が信頼できるかを感知するのは本能なのだろうか?

私たちは、無意識のうちに瞬間的に、自分の顔の筋肉を使って、他人の非常に微妙な表情を読み取っているらしい。この「ミラーリング」によって、他人の感情をすばやく推定できるという。

ある実験結果は、社会的に「のけ者」にされると「痛み関連領域」が活性化することを示している。

著者は、「共感」や「非人間化」について考察する。さまざまな事例を交えて、人間の社会性を脳回路の観点から見ていく。

脳科学とテクノロジーの発展は、私たちに何をもたらすのか。現実的な話とSF小説的な話が登場する

「マシンを体に直接つなぐ技術は着実に向上している」という。著者は、「人工内耳」「人工網膜」の話から始めて、「感覚代行」の話へと展開する。

感覚代行とは、「触覚を通じての視覚のように、ふつうでない経路で感覚情報を供給することを指す」という。たとえば現在では、視覚障害の人が、舌で「見る」、というようなことが可能になっているそうだ。

著者は、聴覚障害者に感覚代行を提供するために、教え子とともに、VEST(「多様な感覚外の変換器」:Variable Extra-Sensory Transducerの略)を構築したそうだ。そんな話も登場する。

ここまででも脳科学とテクノロジーの発展に驚かされる。だが、話はここで終わらない。著者は、教え子たちとともに「人間の能力の範囲に新しい感覚を加えようと」研究しているらしい。「感覚拡張」というSF小説を思わせる話なのだが、「この未来はそれほど遠くない」という。

他にも、「意識のアップロード」など、SF小説を思わせる話題がある。

ひとこと

脳の柔軟さと潜在力、無意識の広大さを照らし出す一冊。豊富な図版と、豊富な事例を交えて、脳を解説している。

初投稿日:2018年06月05日

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