生物と無生物のあいだ

書籍情報

【講談社現代新書】
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著 者:
福岡伸一
出版社:
講談社
出版年:
2007年5月
定 価:
本体740円+税

生命とは何か。この問いを生物学的に見つめながら、叙情的に、物語的に綴る

生命とは自己複製を行うシステムである。この定義は「二十世紀の生命科学が到達したひとつの答え」だが、これでは不十分だと著者は言う。この自己複製という概念をみていくにあたり、遺伝子の本体はDNAだと見抜きながら、あるいはDNAの二重ラセン構造の解明に寄与しながら、受けるべき大きな賞賛を浴びることのなかった「アンサング・ヒーロー」たちにスポットライトを当てる。これが本書の一つの柱。

もう一つの柱は「生命とは何か」の再定義。「生命とは動的平衡にある流れである」というのが著者の見解。この解説においては、著者のポスドク時代の研究エピソードやその時代の街の風景を織り込み、生物学の詳細に踏み込み、生命の繊細さ、巧妙さ、強さと脆さを、叙情的に描き出す。

DNAにまつわる「アンサング・ヒーロー」の物語を軸に、DNAを解説する

「DNAこそが遺伝情報を運ぶ最重要情報分子」だと世界で最初に気づいたのが、オズワルド・エイブリー。彼は「肺炎双球菌の形質転換」というテーマで研究し、遺伝子の本体がDNAであることを見いだした。彼の研究や人物像を軸にDNAを解説していく。

「ダークサイド・オブ・DNA」

DNAの二重ラセン構造を解明した人物として世に知られ、賞賛を浴びたのがフランシス・クリックとジェームズ・ワトソン。しかし著者がスポットライトを当てたのは「アンサング・ヒーロー」ロザリンド・フランクリン。X線結晶学を専門分野とする彼女は、X線によるDNA結晶の解析を行っていた。この「DNA構造を解く上で決定的な鍵を握っていた」彼女の研究データは、彼女が知らないうちに覗き見されていたのだという。二重ラセン構造の解明にまつわる「ダークサイド」を検証している。

生命のありようを「海辺の砂の城」にたとえながら解説。「生命とは動的平衡にある流れである」

秀逸な文章で描かれた海辺の砂の城の比喩で、「生命とは動的平衡にある流れ」というイメージをまず読者に伝える。著者が導入した「動的平衡」という言葉は、ルドルフ・シェーンハイマーが同位体を用いた実験により発見した「生命の動的な状態」という概念を拡張したもの。「秩序は守られるために絶え間なく壊されなければならない」

「エントロピー(乱雑さ)増大の法則に抗して、秩序を維持しうることが生命の特質」

「秩序は守られるために絶え間なく壊されなければならない」。それはなぜなのか。ここに、天才物理学者エルヴィン・シュレーディンガーの予言が重なるという。「すべての物理現象に押し寄せるエントロピー(乱雑さ)増大の法則に抗して、秩序を維持しうることが生命の特質である」とシュレーディンガーは指摘した。

「絶え間なく壊される秩序はどのようにしてその秩序を維持しうるのだろうか」

この問いを提示し、第10章「タンパク質のかすかな口づけ」以降は、生物学の詳細に踏み込みながら論じていく。クライマックスは「GP2」というタンパク質を追いかける著者のポスドク時代の研究エピソード。その研究結果が著者にもたらしたものは、混乱と落胆だった。しかし最後のほうでこう述べている。

「私たちは遺伝子をひとつ失ったマウスに何事も起こらなかったことに落胆するのではなく、何事も起こらなかったことに驚愕すべきなのである。動的な平衡がもつ、やわらかな適応力となめらかな復元力の大きさにこそ感嘆すべきなのだ」

ひとこと

エピローグは良質の少年物語を読んだときのような余韻があった。

初投稿日:2014年09月24日

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